魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「全然おぼえてないな〜」
「あんたの勉強に対する姿勢が垣間(かいま)見えたわね」
「いやぁ、そんなにいわれると照れるよ〜」
「褒めてないわよ! どういう理解力をしてるのよ!」
ラナにペースを乱された小百合は、気を取り直していった。
「ありがとう十六夜さん、よくわかったわ」
リコはよっぽど目の前の謎のリンクルストーンのことを突っ込んで聞きたかったが、それはできないと思っていた。
「ねぇ、このリンクルストーンみたことないんだけど、どんな魔法が使えるのかな?」
隣でみらいが興味津々にいいだすのでリコは焦りまくった。
「魔法って?」と小百合が怪訝(けげん)にたずねる。
「それは、ほら、伝説ではリンクルストーンには魔法が込められてるっていう話だから、みらいはどんな魔法が込められてるのかなっていう意味でいったのよ」
「そう。まるでリンクルストーンに込められている魔法を知っているような言い方だったけれど」
小百合はすべてのリンクルストーンをポシェットに収めて立ち上がる。
「二人ともありがとう」
小百合はもう一度礼をいうと、踵を返す。すると艶(つや)やかな長い黒髪が宙に流れた。
「いくわよラナ」
「う、うん!」
この瞬間、みらいの脳裏(のうり)にイメージが走った。小百合たちが部屋から出ていくとみらいはいった。
「……あの人って」
小百合は部屋に戻るとソファーに腰を下ろして考え込んだ。
――思った通りだったわ。モフルンの能力はリンクルストーンを探すためのものだけれど、一つ一つのリンクルストーンを判別まではできない。全てが漠然とした甘いにおいでしかないんだわ。だからすぐ近くで隠し持っていたこのブラックダイヤはほかのリンクルストーンのにおいに紛れて分からなかった。離れた場所に隠したりしたらばれたでしょうけど。
小百合の思考は続く。
――あの二人が伝説の魔法つかいなら、あの部屋にはこれ以外にもたくさんのリンクルストーンがあったはず。むこうも当然疑っているでしょう。けれど、このブラックダイヤを見ない限りは疑いの域を出ることはできないわ。十六夜さんは今頃悩んでいるでしょうね。
ミラクルとマジカルはダークネスとウィッチに出会ったときにリンクルストーンブラックダイヤしか見ていない。小百合があの二人にブラックダイヤ以外のリンクルストーンを見せないようにした意図は他にあるのだが、その事が功を奏していた。
「ねぇ、小百合!」
「え? なに?」
「さっきから何度も呼んでるのに! ブラックダイヤ見ながらニヤニヤしてどうしちゃったの?」
「ごめんなさいね、わたし集中すると周りの音が気にならなくなるのよね」
「気にならなすぎだよぅ。何考えてたの?」
「色々よ。そのうちにラナもわかる時がくるわ。それよりも、ブラックダイヤのことはあの二人には絶対に秘密にすること」
「どうして?」
「どうしてもよ。もし言ったら大惨事になるからね」
「なんかよく分かんないけど、大惨事はいやだね〜」
小百合はこれで大丈夫だと思った。ラナが自分を全面的に信用してくれていることを知っているからであった。
カタツムリニアの旅が出発より一週間も続くことになっていた。リコの話によれば、それでも今のナシマホウ界から魔法界に一週間で着けるのは奇跡的なことだという。少女四人が一瞬間も共に暮らせば仲良くなるのが普通だ。旅が始まってすぐにみらいとラナはすっかり仲良くなっていた。この二人の場合は最初から気が合っていた。リコと小百合はあえて仲よくなろうとはしなかったが、だからといってよそよそしいわけでもなく普通に接していた。しかし、リコの中には拭えない疑惑があり、それを表に出さないように苦心していた。
「十六夜さん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
朝食の後に、リコが休憩スペースに入ると、後ろから声をかけられた。振り返ると小百合の姿があった。
「なにかしら?」
「勉強を教えてほしいの。魔法界はナシマホウ界と文字が違うでしょう。魔法界の文字を着くまでに一通り学んでおきたいのよ」
「それはかまわないけれど、お友達に教えてもらった方がいいんじゃないかしら?」
小百合はリコに近づいてその肩を抱いてある方向を指した。小百合のきれいな顔が急に近づいたのでリコは少しドキッとしてしまった。
「あれで人にものを教えられると思う?」
小百合が指さす休憩スペースの奥の方にみらいとラナ、それにぬいぐるみ達があつまっている。「リリンは羽があって空が飛べてうらやましいモフ」
「モフルンは飛べないデビ?」
「飛べないモフ、飛びたいモフ!」
「モフルンだって飛べるさ〜」
ラナはモフルンの頭の上に乗せると猛ダッシュ。
「ラナジェットーっ!」
「すごくはやいモフ〜」
「待ってデビーっ!」
頭にモフルンの乗せたラナとそれを追うリリンがリコと小百合の目前を過ぎり、ラナはレストランを一周して部屋の前を通って戻ってくる。
「スーパーラナジェットーっ!」
「楽しいモフ〜」
「早すぎるデビ―っ」
ラナはまたリコの小百合の目の前を通り、息を弾ませながらみらいの元に帰った。
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
「本当にお空を飛んでいるみたいだったモフ」
「よかったね、モフルン」
それを見ていたリコはいった。
「ちょっと難しいかもしれないわね」
「そんな気を使ったいい方しなくてもいいのよ、絶対無理だからね」
そういうわけで、リコと小百合は一緒に勉強することになった。その時にリコは思った。
――もし彼女がダークネスでわたし達の正体にも勘づいていたとしたら、こんな気軽に接触することはできないんじゃないかしら?
リコはそういう考えで割り切ることに決めた。小百合の親しみのある態度に安心した事もあるが、もし小百合とラナがもし敵だったとしても、狭い電車の中で密に生活している今の状況では知らない方がよい事だった。
小百合が自分の部屋からノートを持ってくると、二人で寄りそってテーブルの前に座った。
「十六夜さん、せっかくの電車の旅なのに悪いわね」
「いいのよ。それと、リコでいいわよ」
リコがいうと、短い間があった。小百合はみらいやリコと親密な関係になる事は避けたかったが、これからリコに勉強を教えてもらう手前そういうわけにもいかない。
「じゃあ、わたしのことも小百合と呼んで」
「そうさせてもらうわ」
そしてリコの授業が始まった。まずは数字からであった。
その夜、小百合はソファーに座ってため息ばかりをついていた。ベッドでゴロゴロしていたラナが下りてきて小百合の目の前に座る。
「さっきからため息ばかりでどしたの? こんなに楽しい旅なのに!」
「この電車をカタツムリみたいなのが牽(ひ)いてると思うと憂鬱(ゆううつ)になってくるのよ。カタツムリニアっていうネーミングもねぇ……」
「そっかぁ。じゃあ、こう考えたら。カタツムリニアじゃなくて、実はナメクジリニアなんだって」
「止めて変なこといわないで! 想像しちゃうでしょ!」
ラナが余計な衝撃を与えて、小百合はさらに気分が悪くなった。そんな時に何者かがドアをノックする。
「はいはい」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ