魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
小百合たちもみらいたちと同じくらいの時間に起きて身だしなみを整え、寝間着から私服に着替えてからは朝食の時間になるまで適当に休んでいた。その時に誰かが部屋のドアを叩いた。その音はかなり控えめだったが、ラナがすぐに気づいてドアを開ける。
「はい、は〜い、どなた〜?」
ドアを開けると誰の姿もないのでラナは首を傾げたが、とつぜん足元から声がした。
「おはようモフ」
「うわっ、びっくりした〜。モフルンかぁ」
「モフルン、いらっしゃいデビ!」
「リリン、おはようモフ!」
二人のぬいぐるみがとても親し気に挨拶をかわす。昨日も一緒に仲良くクッキーを食べたりして、ぬいぐるみ同士、気が合うようだ。気になった小百合もドアの前まできて様子を見た。
「モフルン、どうしたの? 一人でこんなところにきたら朝日奈さんが心配するわよ」
「と〜っても甘いにおいがするモフ」
「甘いにおいって?」
モフルンは走り出し、ラナと小百合の足の間をすり抜けてテーブルの前のソファーによじのぼった。そして、テーブルの上にあるラナのポシェットを見つめて笑顔になった。
「ここからリンクルストーンの甘いにおいがするモフ」
「まさか!?」
さすがの小百合もこれには声を大きくした。そばにいたラナは、モフルンよりも小百合の大声に驚いてしまったほどだ。モフルンは新たなリンクルストーンを見つけたことを素直に喜んでいた。小百合は速足でモフルンに歩み寄って、ポシェットの中から甘いにおいの元を出した。
「あなた、これのにおいが分かるの?」
小百合がオレンジサファイアのリンクルストーンを見せると、モフルンは目を輝かせた。
「わかるモフ、新しいリンクルストーンモフ!」
「どうしよう、小百合……」
いつものんきなラナも、この時ばかりは深刻そうな顔をしていた。それに対して、小百合は冷静で、さらにモフルンの様子からある確信を得た。
「なるほどね」
小百合はポシェットから今持っている全てのリンクルストーンを出した。その時にブラックダイヤだけは上手く手の内に隠してズボンのポケットに入れる。
「知らないリンクルストーンがいーっぱいモフ〜」
「モフルンはこれをにおいで探すことができるのね。どれも甘いにおいなの?」
「そうモフ、とっても甘いにおいモフ」
小百合はモフルンを抱き上げてからいった。
「ラナ、あの二人に会いに行きましょう。そのリンクルストーンを全部持ってね」
「ええぇ!? どうすんの!?」
「わたしがお話をするから、ラナは何もいわずに見ていて」
「うん、わかった」
ラナには小百合の考えはわからないが、小百合を頼りにしているし、心の底から信頼している。だからラナは愚直に小百合の言うことに従った。ラナはテーブルにちりばめられた宝石をポシェットの中に戻していく。
――あれぇ、ブラックダイヤがない。
ラナは小百合がブラックダイヤを持っていることにすぐに気づいた。小百合が何をしようとしているのか、ラナは興味がわいた。もう不安も心配もない。小百合なら必ず何とかしてくれると信じていた。
「朝日奈さんがきっと心配しているから、モフルンを届けてあげましょう」
小百合は自信ありげにいった。
「あれ? モフルンがいない」
「いつの間に出ていったのかしら?」
二人は身だしなみを整えて一段落して、ソファーに座っていたらモフルンがいないことに気づいた。
「きっとリリンのところに遊びにいったんだよ。あの子たち、とっても仲良しなんだよ」
昨日知り合ったばかりのモフルンとリリンが、みらいの目にはもうそういう風に見えていた。
その時、ドアをノックする音が聞こえてくる。
「はぁい!」
みらいがドアを開けると、モフルンを抱いてる小百合がいてやっぱりと思った。
「この子が部屋にきて気になることがあったから、少しお話いいかしら?」
「どうぞどうぞ」
小百合はモフルンをみらいに渡してから、ラナと一緒にソファーに座った。リコとみらいもテーブルを挟んだ向かいのソファーに座り、モフルンとリリンは二人で遊び始める。
「お話ってなにかしら?」
そういうリコは見る者に好感を与える柔い微笑をうかべていた。
「モフルンが甘いにおいがするとかいって、こっちの部屋にきたんだけど」
「え?」
それを聞いたリコの顔から笑みが消える。さっきもモフルンは甘いにおいがするといっていた。モフルンが部屋を出ていった理由をリコは想像した。まさかと思っているリコの前に、小百合は何食わぬ顔でラナのポシェットに手を突っ込んでからラナにいう。
「これ、何ていったっけ? リンクルなんとか」
「え? リンクルストーンでしょ?」
ラナは本当に小百合が忘れてしまったのかと思ってしまった。一方で、リンクルストーンと聞いたみらいとリコは声も出ない。そして小百合がポシェットからリンクルストーンを一つづつ出して並べていく。
「え、え、ええっ!? 本当にリンクルストーンなの!?」
「こんなことって……」
みらいのオーバーリアクションを見た小百合は、心の中でほくそ笑んだ。
――この反応は間違いないわ。この二人が伝説の魔法つかい。
二人の驚きは見たことない物に対する驚きではなく、あってはならない物が目の前に現れた時の驚きだった。特にみらいの方がそういう空気が強く、小百合の確信の要因の一つとなった。そして、何度かみらいに出会った時の状況、以前ビルの破壊の跡を見ていたリコの姿が小百合の中で一つになって答えが導き出されたのだ。
一方、リコは冷静に目の前に現れたリンクルストーンを見つめている。隣であたふたしているみらいとは対照的だ。
――ない、あのリンクルストーンがないわ。モフルンはにおいでリンクルストーンの存在がわかるんだから、別の場所に一つだけ隠すことなんてできないはず。ということは、彼女たちが持っているリンクルストーンはこれで全部?
「これはラナが旅の途中で拾ったのよ。この子の話から、このリンクルストーンが魔法界でものすごく珍しい宝石っていうのはわかったんだけれど、ラナの説明じゃ要領を得ないところがあってね。あなた達ならもっと詳しいことを知っているんじゃないかと思って聞きにきたのよ」
「……そうだったの。基本的なことくらいなら説明できるわよ」
みらいがリコに耳打ちしてくる。
「リンクルストーンって他にもあったんだね」
「そんなはずないんだけど、後で校長先生に聞いてみましょう」
「なにをひそひそ話しているの?」
「なんでもないのよ、気にしないで」
リコは少し焦りながらいった。それから彼女は少し考えて、頭の中で話の内容をまとめる。
「リンクルストーンは魔法界の伝説に関係があるのよ」
それからリコが語ったことは、リンクルストーンの数と種類くらいのもので、小百合もそれは以前にフレイアから聞いていて知っていることだった。リコは話が終わるといった。
「これくらいのことは魔法学校で習うから誰でも知っているわ。もっと詳しいことが知りたければ、魔法図書館でも調べられるし」
「ふ〜ん、そうなんだぁ」
「十六夜さんは今基本的なことは学校で習うっていっていたけど」
ラナが感心したようにいうと、小百合は間髪(かんぱつ)いれず突っ込んだ。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ