魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「急にいなくなって、本当に心配したんだから」
「アハハ、こめんね〜。わたしリンクルストーン探しにナシマホウ界にいってたんだ〜」
「ナシマホウ界に?」
エリーは最初は驚いていたが、すぐに表情が変わって微笑するような、それでどこか悲しみを感じさせるような顔になる。それから彼女は小百合の姿に気づき、小百合がエリーに向かって無言で頭を下げた。エリーが小百合に近づいて手を差し出す。
「エリーです。よろしくお願いします」
「聖沢小百合と申します」
小百合がかしこまった口調でエリーと握手をする。エリーはまるで旧知の友人と久しぶりに会ったとでもいうように嬉しそうだった。
「あなたはナシマホウ界の人ね」
「わかるんですか?」
「変わった服を着てるからそうだと思ったの」
「リリンデビ、よろしくデビ」
いきなり小百合が抱いているリリンがしゃべったのでエリーは目を丸くした。
「ぬいぐるみがしゃべるの!? 一体どんな魔法をかけたの?」
「ラナの魔法でたまたまこうなったんです」
「あの子の魔法は何が起こるか分からないからね。それにしても、すごい魔法がかかったものね」
小百合の言ったことをエリーはすっかり信用していた。ラナのめちゃくちゃな魔法は、リリンのことをごまかすのに丁度良い口実になる。
小百合は周りにあるリンゴの木を見てリンゴの赤さが眩しいとでもいうように少し目を細くしていう。
「このリンゴ畑はあなたのものなんですか?」
「この辺りはマナリさんのリンゴ畑よ」
「マナリっていうのは、わたしのおばあちゃんなの!」
「おばあちゃんは最近亡くなったっていっていたわね」
「亡くなったのは3ヶ月ほど前よ。あの時のラナちゃんは泣いてばかりで心配だったけれど、今は元気そうで安心したわ」
エリーの言ったことが小百合には信じられない。小百合には泣いてばかりのラナを想像することができなかった。たった一人の肉親が死んだのだ、悲しいに決まっている。それでもラナは悲しみに負けずに明るく笑っているような気がしてならない。
「エリーお姉ちゃんが、おばあちゃんのリンゴ畑を見てくれたんだね!」
「ええ、そうよ。ラナちゃんが帰ってきたら驚かせようと思ってね」
「ありがと〜」
ラナはエリーに飛びつく。抱き合っている姿はまるで姉妹のようであった。
ラナの家は二人住まいだっただけあり手狭であった。あるのは暖炉と木目のある古びたテーブル、2脚の椅子に大きめのベッドが一つ。狭い家の中にキッチンや風呂まであるので居住スペースはわずかだ。小百合がラナの家に足を踏み入れると埃が舞い上がった。あまりの埃っぽさに小百合はむせてしまった。
「たった3ヶ月でも人が住まないとこうなるのね」
「あう〜、ほこりだらけだよ〜」
「みんなでお掃除しましょう」
笑顔でいうエリーに誰も異論はなかった。
その夜、小百合はパジャマに着替えてあくびをしながらベッドに近づくとリリンの姿しかない。この家にはベッドが一つしかないのでラナも一緒に寝ることになっていた。小百合は何となく予感があって外に出ると、ラナは夜のとばりが下りたリンゴ畑の中に座って満点の星を見上げていた。小百合が無言で近づいてラナの隣に座ると、みずみずしい果実が弾ける小気味よい音がした。同じような音が不規則に聞こえてくる。
「おばあちゃんのリンゴ美味しい……」
ラナがリンゴを食べるのをやめると、果実を持つ手に涙がこぼれ落ちる。小百合にはラナが泣いているのが分かったのでラナの肩を抱いて寄せると、ラナの手から食べかけのリンゴが落ちて転がる。ラナは小百合に体を預けると涙が止まらなくなった。
「うえ〜ん……」
ラナの中にある悲しみがどんなに大きなものなのか、今なら小百合にも理解できる。こんな悲しみを背負いながら明るく元気でいることがどれ程のことなのか。少なくとも小百合はとても真似できないと思った。
「この場所には悲しみが多すぎるわ」
小百合の声は星降る夜に吸い込まれた。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ