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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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「……あの人、やっぱりすごい人だったんだ」
「エリーの魔法を見たのね」
「はい! あの人の魔法はとても優雅で、なんて言ったらいいのか、口で説明するのは難しいんですけど……」
「あの魔法はちょっと真似できないわね。エリーは魔法の実技がいつも一番だったのよ。わたしは勉強の方が得意で、彼女とはいつも首席争いをしていたのよね、懐かしいわ」
 何となく昔話をしているリズの横顔を見て、小百合は心の中でガッツポーズしていた。
 ――リズ先生もすごいじゃない! 休みの日はエリーさんに勉強を教えてもらえばいいし、勉強するのに最高の環境を手に入れたわ!
「少し話しすぎたわね、始めましょうか」
「実は、ここのところが分からなくて」
 リズは小百合の分からない部分を丁寧に分かりやすく教えてくれた。リズには担当の授業があるので合間に小百合の勉強を見てくれることになった。小百合がリズと一緒に勉強できる時間は長くはないが、それでも小百合にとってリズは救世主になった。

 水晶を見ている校長の目の前にリズが現れる。校長は水晶からリズに視線を移して言った。
「どうであった?」
「小百合さんは優秀な生徒です。よく勉強していて、魔法界にきて間もないとはとても思えませんでした。あの一生懸命に勉強に打ち込む姿はリコによく似ています」
「そうか」
 校長は席を離れて後ろの窓から外の景色を眺める。
「わしの見立てでは、あの子には魔法の才能がある」
「校長先生がそう言うのでしたら間違いないでしょう。でも、魔法の杖がなければ……」
「うむ、惜しいのう」
 校長はもう黒いプリキュアの正体が小百合たちだと知っている。しかし、それを誰にも明かしてはいなかった。今はただ、魔法学校の校長として、一人の教育者として、生徒たちを見守ることに徹していた。

 あくる晴れの日には、小百合は誰もいない校庭の隅でラナから借りた初心者用の箒に跨っていた。
小百合は箒で飛ぶことはできないが、目を閉じて自分が空を飛んでいることをイメージしている。そんな自分が意図しない大ローリングをして空中に投げ出されてしまう。恐怖のイメージで小百合が目覚めると、恨めしそうな顔をした。
「ラナのせいで、箒に乗るのだけうまくイメージできないわ……」
 渡り廊下からそんな小百合の姿を見た生徒の何人かは笑って言った。
「なにあれ、バカみたい」
「あの子、図書館でずっと勉強してる子でしょ。魔法も使えないのにあんなことして、どうかしてるわよ」
 その日、リコとみらいも渡り廊下から小百合の姿を見ていた。二人の友達でブロンド三つ編みの大人しそうなメガネの少女エミリー、セミロングの栗色の髪にふわふわウェーブの可愛らしいケイ、ショートの青髪で見るからに勝気そうなジュンも一緒だった。
「小百合すごいね、一生懸命練習してるね! あんなに頑張ってるんだもん、きっと魔法だって使えるようになるよね」
「みらい、それは無理よ。どんなに頑張っても、魔法の杖がないと魔法は使えないの。あなただってわかっているでしょう」
 リコが言うと、みらいは自分のハートの杖を出して大きな笑みを浮かべる。
「頑張っていればきっと小百合の願いは通じるよ! わたしだって、魔法の杖もらえたもん!」
 みらいらしい前向きな意見だが、リコはそうねとは言えない。リコにはあんな奇跡が二度も起こるとは思えなかった。
「ぷふふ」
 小百合の姿を見てジュンが吹き出す。
「笑ったりしたらいけないよ」
 みらいが注意すると、ジュンは笑うのをこらえて言った。
「わかってる、わかってるんだ。あんな一生懸命なんだから、笑っちゃいけないよな。でもさ、あの姿を見るとどうしても……」
 ジュンは笑いをこらえるのが辛いというように、小百合から視線をそらした。
「わたしにはあんなこと絶対できないよ」
 ケイが怖いものをみるような目で小百合を見つめる。一方でエミリーは神妙な顔をしている。
「わたしはあの人が本当にすごいと思う。魔法も使えないのに、あんなに真剣に箒に乗る練習をするなんて、尊敬する」
 エミリーは箒に乗るのに苦労しているので、その言葉は重い。みんな黙って小百合が箒に乗る姿を見つめた。その時、リコは恐れている自分に気づいた。小百合が自分の背後に迫ってきている。努力している小百合の姿が自分と重なって、そう思わずにはいられない。そして自分の本当の気持ちが分かった。
 ――ちがう、わたしは小百合に魔法の杖を手に入れてほしくないと思っているんだわ。あんなに頑張っているんだから、みらいみたいに魔法の杖を手にしてほしいと思うのが本当よ。
 そう思ってもどうしても素直になれない。それは、リコが魔法に対して持っているコンプレックスが原因だった。昔に比べればリコの魔法は上達しているが、まだまだリコの理想には遠い。もし小百合と成績を争うことになって、勉強は負ける気はしないが、魔法では負けるんじゃないか。それが小百合に対する恐怖となって現れていた。
 周りの生徒が小百合をバカにする程に、リコは恐ろしくなった。
 ――みんな何も分かってないわ。彼女が図書館で勉強を終えて教室に来たら、バカに何てできなくなる。小百合と一緒に勉強したわたしには分かる。
 そしてリコは、これから勉強にも魔法にもますます力を入れて頑張ろうと心に誓うのであった。

『キュアップ・ラパパ! キュアップ・ラパパ!』
 校庭に生徒が集まって老齢の教師アイザックの指導の元に魔法の呪文を唱和していた。ここにいるのはリコたちよりも一学年下の二年生だ。それを小百合が遠くから見ていて、彼らに合わせて拾った枯れ枝を振っていた。
「キュアップ・ラパパ! キュアップ・ラパパ!」
 小百合に恥ずかしいなどという気持ちはなかった。ただラナのことを思って、真剣に枝を振って呪文を唱えていた。
 ――例え魔法が使えなくても、やるからには全力よ。どうせなら自分は大魔法つかいだと思って、正々堂々と自信をもってやりなさい!
 小百合はそう自分自身に言い聞かせて、力強く枝を振って唱える。
「キュアップ・ラパパっ!!」
 小百合の声があまりにもよく通るので、アイザック先生が生徒に教えるのを止めて小百合の方に近づいてきた。彼は皺だらけの人の好さそうな顔をほころばせて、きょとんと立っている小百合に言った。
「素晴らしい、あなたの呪文は完璧です」
「あ、ありがとうございます!」
 小百合は自分が授業の邪魔になって注意されるのかと思っていたので、褒められて嬉しいと思う前に面食らった。
「あなたも一緒にやりませんか?」
「はい、よろしくお願いします!」
 アイザック先生は、小百合をみんなの前に連れていくと言った。
「彼女は魔法が使えません。それでも真剣に勉強しています。彼女の唱える呪文には、魔法つかいに必要な自信、魔力を高める集中力、そして自然と一体となり精霊に呼びかける声、全てがそろっています。みなさんも負けないように頑張って下さい」
 生徒たちの間にざわめきが起こり、変な空気が流れ始める。素直に小百合を尊敬して褒める生徒もいれば、魔法が使えないのにそんなこと頑張ってもと思う生徒もいた。