魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
それから少し後のこと、リコが調べ物があって図書館に来た時に小百合と出会った。それを見たリコは強烈な衝撃を受けた。小百合が図書館で勉強をしていることは知っていた。だが、リズに勉強を見てもらっていることは知らなかった。
「お姉ちゃん……」
リコは図書館の入り口に立ち止まって動けなかった。真剣な顔で教科書をめくっている小百合を見守るリズは、どことなく楽しそうだ。リコの心の底から妙な感情が押し寄せてくる。リコが今までに経験したことのない嫌な気持ちだった。リコは図書館に入ることができずに走り去った。そして、中庭の池の前で立ち止まって半ば呆然としてしまう。
「……そうよ」そしてリコは考えた。
――あんなに頑張っている小百合を、お姉ちゃんが見過ごすはずないじゃない。
そう思ってもリコの中に割り切れない思いがある。中学生になってからしばらくの間はリコとリズは疎遠になっていた。今はそうでもないが、いまだに尾を引いている部分がある。リコはまず姉を越える魔法つかいになる事を目標にしていて、リコのプライドの高さから目標である姉に教えを乞うことは今までに一度もなかった。こと勉強に関しては、ほとんど独力でやってきたといってもいい。そんなリコを差し置いて、小百合はリズから直接教えを受けている。リコは小百合に姉を取られたような気持になった。それはリコが初めて経験する気持ちで、自分が小百合に嫉妬(しっと)しているということには気づかなかった。
リコがそんな気持ちを抱えたまま放課後になり、みらいと一緒に寮に向かって廊下を歩いている時に、またおかしなことが起こった。
「さっき図書館で小百合を見たよ。魔法が使えなくてもあんなに一生懸命勉強して偉いよね。昔のリコにちょっと似てるね」
みらいがいつもの調子で楽しそうに話すと、リコはうつむいた。
「違う」
「リコ?」
「小百合とわたしは全然違う! 違うのよ!」
その激しい否定の言葉の底に憤怒(ふんぬ)が込められていた。近くを歩いていた生徒たちも驚いて少し立ち止まった。みらいは驚くよりも心配そうな顔をしていた。思わず大声を出したリコは後悔して、今度は落ち着いていった。
「小百合は魔法の杖さえあれば魔法を上手く使える、そういう絶対の自信を持っているわ。だから何を言われても平気なのよ。わたしとはぜんぜん違う……」
「リコ……変なこといってごめんね」
「わたしの方こそ、大声出してごめんなさい」
この程度のことで二人の友情が壊れることはないが、みらいはリコや小百合の気持ちが見えていなかった自分を反省した。
図書館に行けば大抵は小百合の姿があるので、魔法学校ですぐに噂になった。魔法の杖がないのに魔法の勉強をする変わり者というのが生徒たちの間にあるおおむねの認識であった。だから大抵はバカにされる。小百合はまったく気にしていないが、ラナは気になっていた。
朝のこと、ホームルームの前に廊下にたむろして少女たちが談笑していた。
「ねえ、レティア聞いた? 図書館のあれ」
「知っているわ。魔法の杖がないのに無意味な勉強をしている人でしょう」
「笑っちゃうよね」
少し太った女の子が気位の高そうな長い赤髪のレティアにいった。その近くにいるレティアよりも少し背の高いやせた女の子が同意して頷く。
それをたまたま近くで聞いていたラナは我慢できなくて叫んだ。
「小百合はすごいんだからね! ちょー頭いいんだからっ!」
少女たちが怪訝な目でラナを見つめる。それからレティアは相手をバカにして笑みを浮かべた。
「あら、誰かと思ったらラナじゃない」
「へぇ、あんた学校に戻ってきてたんだ、逃げ出したと思ってたよ!」
太った方が言ってくっくと笑った。
「小百合の悪口は許さないんだからね!」
「そう。じゃあ、魔法も使えないのに一生懸命お勉強している貴方のお友達の小百合さんは、どんなふうにすごいのか説明してちょうだい」
「え? それはその……」
「どうしたの? 早く説明して」
ラナは黙ってしまった。説明しようにも言葉がまとまらない。レティアはラナが頭の良くないことを知っていて、わざと言葉で追い詰めて楽しんでいた。取り巻きの二人の少女も面白そうに笑っている。
「何をしているの?」
リコの声だった。リコとみらいが近くを通りかかったのだ。
「優等生だ」
とりまきの痩せてる方がレティアに小声で言った。レティアも成績は上位なので、髪をかき上げて、リコになんて負けないという気持ちを偉そうな態度に出した。
「ラナの方から因縁(いんねん)をつけてきたのよ」
ラナは指わすらをしながら言った。
「みんなが小百合のことをバカにするから……」
それを聞いて、リコは何があったのか大体を察した。そしてリコは、レティアの目を見ていった。
「わたしは小百合のことを少しは知っているわ。きっと彼女は近いうちに首席争いに入ってくる。わたしも、あなたも、敵わないかもしれない」
レティアは驚きのあまり声も出なかった。学業成績トップのリコがいうその言葉は雷撃のように鋭く強烈にレティアの胸を貫いた。
「……行きましょう」
レティアはろくな言葉も返せずに取り巻きと一緒に去った。
「ありがとう、リコ!」
ラナは胸がすっとしてリコに抱きついた。リコは少し窮屈そうにして、ラナが離れると咎めるように言った。
「あんな人たちに関わったらだめよ」
「でも、ラナの気持ちすごくわかるよ! わたしだってリコの悪口言われたら怒る!」
「モフルンだって、許さないモフ!」
みらいに続いて、みらいに抱かれているモフルンまで怒った顔で言うと、リコは苦笑いを浮かべる。
「気持ちは嬉しいけど、平和的にね」
その時にホームルームが始まるチャイムがなり、リコたちは慌てて教室に入っていった。
小百合はすでに授業が終わって生徒たちが帰り始める時間になっても図書館で勉強していた。前の時間はリズの担当の授業がなかったのでずっと付きそっている。小百合が何度か手の中でペンを回してから素早くノートに何事かを書き込んでいると、女の子が図書館の入り口に現れて、なにか言いたそうな顔でまごついていた。リズがその様子に気づく。
「どうしたの?」
リズが気さくに声をかけると、少女は邪魔をするのが申し訳ないという控えめな様子で近づいてくる、ケイだった。小百合は彼女のことを何度か見かけたことがあった。
「リズ先生、教えてほしいところがあって。リコに聞こうと思ったんですけど、何だか忙しそうで……」
「いいわよ、あなたも一緒に勉強する?」
「はい!」
「あなたがリコと一緒にいるところを何度か見かけたわね」
小百合がペンを置いて言うと、ケイは蛇にでも睨まれたような感じでおずおずと答える。
「リコは友達なんです」
「小百合といいます、よろしくお願いします」
小百合が手を差し出すと、ケイがようやく笑顔を浮かべる。
「ケイです、よろしくね」
小百合とケイが握手をすると。近くで座って見ていたリリンが立ち上がって手をあげる。
「リリンデビ、よろしくデビ」
「ええぇっ!? ぬいぐるみがしゃべってる!? モフルンと同じ!?」
「モフルンは友達デビ」
「モフルンにこんなお友達がいたんだ、よろしくね」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ