新しい日々 第1話
第一話「新しい日々の始まり」
−2月13日−
あたしが入院してから数日が経った。あたしが病院で最初に目がさめたのは、病院に運ばれた翌朝だった。それから、MRIだのいろいろな検査があって、その日は過ぎて行った。
結局、怪我の方は頭皮が切れて何針か縫ったぐらいで、脳には異常が見当たらなかったようだ。気絶したのは脳震盪が原因だったらしい。
両親は、あたしが病院に運ばれて来た時にお医者さんに説明を聞きに来ただけで以来、一度も来ていない。
そういう事で、あたしの世話は今のところひなたがやってくれている。ひなたは思ったよりあたしのことが嫌いではないようだ。ぶつぶつと文句を言いながらもちゃんとしてくれる。
香澄はあの日、面会時間ギリギリまであたしのそばにいてくれたらしい。しかし、香澄は何故か、あたしが目を覚ましてから一度も来ていない。まあ、この時期いろいろと忙しいし、特に香澄はいろいろと人望が厚いので仕方がないのだろう。
そして、あたしはというと、昨日ひなたが勉強道具一式を持って来てくれたのにもかかわらず、こうしてまどろんでいるのでした。
「姉ー!!」
「ふぇっ?」
慌てて、声のする方を見ると、ひなたが鬼のような顔をしていた。こわい。とてもこわい。
「姉さ、いくら入院しているからって言っても怪我でしょ怪我。別に高熱にうなされてる訳でも、痛みに苦しんでる訳でもないの。ちゃんと勉強しなさいよ」
「だってぇ〜。やろうとすると、それ検温だの、それ回診だの、それ食事だの、集中できないんだもん」
「それはあんたがやりたくないからでしょうが」
と、諭すひなた。
「うん」
と、あたしが正攻法で返すと、
ひなたは盛大にため息をついた。
「あのねえ、やりたくなくても、や・る・の。香澄の後輩とかになりたくないでしょ? それにただでさえ………」
「ただでさえ?」
「ああもうっ、何でもないわよ。ちゃんとやるの。やらないと、後悔するよ」
「分かった。やります〜」
「まったくもう。じゃああたし、用があるからもう帰るね。持ってきて欲しいものとかある?」
「ううん、今は別に」
「そう。じゃあね」
「うん、また明日」
ひなたは、体に似合わない大きなリュックを担いでとことこと帰っていった。小人が大きな袋をえっちらおっちら担いでいるようで、少し滑稽だった。