白い闇6【番外編】
白い闇6 【番外編】
かつて、反地球連邦軍エゥーゴでZガンダムのパイロットをしていたカミーユ・ビダンは、軍を退役して今は月面都市“フォンブラウン”で医者を目指して勉強していた。
そんなカミーユの元に、かつての上官であったブライト・ノアから連絡が入る。
「ブライト艦長、お久しぶりです」
モニターに映るブライトは、数年経った今も、あまり変わらないように見えたが、少し疲れた印象を受けた。
〈カミーユ、久しぶりだな。元気だったか?〉
「はい、おかげさまで」
〈実はカミーユ、君に頼みたい事があって連絡したんだ〉
「僕に、ですか?」
〈地球に降りて、ある人物に会って欲しいんだ。そして、その人物の近況を伝えて欲しい〉
「ある人物?それは誰ですか?」
〈…すまん、今から送る住所に行けば分かるから…何も聞かずに行ってくれないか?〉
「ブライト艦長?」
ブライトの歯切れの悪い物言いに疑問を感じながらも、ブライトからの依頼を断れる訳もなく。カミーユはその奇妙な依頼を引き受ける事にした。
数日後、カミーユは地球に降りてブライトに指示された場所へと向かう。
指示された場所は、欧州にある田舎町で、大きな山々に囲まれた美しい所だった。
住所を頼りに歩いて行くと、一軒の小さな家に辿り着く。
玄関の呼び鈴を押そうと手を伸ばした時、裏庭から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
カミーユはまさかと思い、急いで裏庭へと回る。
そしてそこで、思いもしなかった人物を見つけ、驚きに目を見開く。
元々華奢だった身体は、更に中性的なラインへと変わり、癖のある赤茶色の癖毛も伸びて、後ろに一つで纏めている。
その為、一瞬男性なのか女性なのか分からないくらいだったが、それは間違いなく自分の知る人物で、カミーユは思わずその人物の名前を呟く。
「……アムロ…さん…」
その声に、目の前にいる人物がこちらに振り返る。一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに満面の笑みを浮かべて自分の名を呼んでくれた。
「カミーユ?」
そして驚きで固まってしまった自分の元に、歩み寄って来てくれる。
あの時、シロッコと共に死んでしまったと思っていたアムロ・レイが、今、目の前に立っているのだ。
カミーユは何度も瞬きをして、その顔を確かめる。
「本当に…アムロ…さん?」
「ああ、アムロ・レイだよ。カミーユ、久しぶりだな」
にっこりと微笑むアムロに、思わず抱きつく。
そして、年甲斐もなく泣いてしまった。
しばらく泣いて、ようやく落ち着いた頃、足元に小さな子供がいる事に気付く。
「アムロさん…この子は…?」
アムロと同じ赤茶色の癖毛に、アムロによく似た顔立ち。しかし、その瞳はあの男と同じブルーグレイをしていた。
「…ま…さか…」
アムロは小さく微笑むと、子供の頭を優しく撫ぜる。
「カミーユ、立ち話も何だから、良かったら家の中にどうぞ」
「あ…はい」
アムロに促され、家の中に入って行くカミーユを、子供が不思議そうに見つめる。その瞳は、自分が殺したあの男と同じで、カミーユはズキリと心が痛む。
『…パプテマス・シロッコ…』
家に入ると、狭いながらも明るいリビングのソファへと案内される。
マグカップに煎れたコーヒーを手渡され、アムロは向かい側のソファに座ってこちらを見つめる。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ここにはブライトから言われて来たのか?」
「はい…近況を教えてほしいと頼まれました」
「…そうか…。ブライトには元気だって伝えておいてくれ」
「はい…。アムロさん…生きて…生きていてくれたんですね!俺…アムロさんはあの時シロッコと一緒に死んでしまったかと…」
また涙ぐむカミーユに、アムロが小さく微笑む。
「ああ、俺も死んだと思ったよ。でもあの時…最後の最後で、アイツは俺を手放した…。俺をギュッと抱き締めてから…笑って俺を離したんだ。“自由になれ”って言って…」
語るアムロはそっと目を伏せる。
「アムロさん…」
「正直、アイツの事は嫌いだった。無理やり番いにしたアイツを憎んでた。だけど…契約に縛られた身体は、シャアを求める心を裏切ってアイツを求めた。当時はそれが一番辛くて…一層俺を追い詰めて行ったんだ」
その事に、側で見ていてカミーユも気付いていた。
そしてそれはクワトロ大尉も気付いていたと思う。だからあまり強引にアムロを奪おうとはしなかった。
「でも、あの爆発でよく無事で…」
「ああ、運良くコックピットは無傷でね。ジェリドが回収してくれたんだ」
「ジェリド…・メサですか?」
「うん、実はあの後、爆発に巻き込まれた時の衝撃の後遺症か、番いを失った事によるショックか分からないけれど、しばらくの間、俺は人形みたいになってたみたいでさ、アイツがずっと面倒を見てくれてたんだ」
自分は全く覚えていないけど、とアムロが肩をすくめる。
「それで、モビルスーツにも乗れない俺は用無しになって、またニュータイプ研究所に送られそうになったんだ」
「え!?」
“ニュータイプ研究所”、アムロに非人道的な実験を行い、フォウやロザミア達のような強化人間を生み出した場所。
戦後、ブライトから自分もニュータイプ研究所から狙われていたと聞いた。
アムロの助言により、ブライトが守ってくれたお陰で自分は送られずに済んだのだ。
「大丈夫だったんですか?」
「ああ、ジェリドがブライトに連絡をとってくれて、その伝手でここまで逃してくれたんだ」
「ジェリドがブライト艦長に!?」
「まぁ、ティターンズもエゥーゴもそのまま連邦に吸収されたからな。連絡は取れたんだろう」
「そりゃそうですけど…。良く連絡取りましたね」
かつてアーガマに潜入してコロニーレーザーの制御権を奪ったり、執拗にカミーユを狙ってアーガマに攻撃を仕掛けてきた人物だ。遺恨が無いわけがない。
「本当に…かなり悩んだと思うよ。でも俺の方も研究所の連中が動き出して切羽詰まってたみたいだから、ブライトに連絡する以外なかったんだろうな。お陰で俺は今こうして生きていられるんだ、本当にジェリドには感謝してるよ」
「ジェリドは今どこに?」
「ちょっと前までは一緒に暮らしてたんだけど、俺が落ち着いたのを確認して軍に戻っていったよ」
アムロは子供の頭を撫ぜながら微笑む。
子供も嬉しそうにアムロに甘える。
「大人しいですね」
「ん?ああ、実はこの子喋れないんだ」
「え?」
「声帯や脳に異常は無いし、言っていることもちゃんと理解してるんだけどね。産んだ時の俺の状態が状態だったからその影響かもしれないな」
「そういえば…アムロさんはいつ回復したんですか?」
「この子を産んだ時だよ。そもそもオメガとアルファの番い契約はアルファの遺伝子を残す為のものだからね。それが成し遂げられた事でその呪縛から解放されたのかもしれない」
アムロは徐に襟元を緩めて首の後ろをカミーユに見せる。
「ほら、気付いたら噛み跡も綺麗に消えてた」
「あ…」
「でも、まぁこの子がアイツの子供だっていう事には変わりないんだけどな」
こちらを見つめる子供の瞳に、カミーユは複雑な想いを抱える。
「アムロさんは…」
かつて、反地球連邦軍エゥーゴでZガンダムのパイロットをしていたカミーユ・ビダンは、軍を退役して今は月面都市“フォンブラウン”で医者を目指して勉強していた。
そんなカミーユの元に、かつての上官であったブライト・ノアから連絡が入る。
「ブライト艦長、お久しぶりです」
モニターに映るブライトは、数年経った今も、あまり変わらないように見えたが、少し疲れた印象を受けた。
〈カミーユ、久しぶりだな。元気だったか?〉
「はい、おかげさまで」
〈実はカミーユ、君に頼みたい事があって連絡したんだ〉
「僕に、ですか?」
〈地球に降りて、ある人物に会って欲しいんだ。そして、その人物の近況を伝えて欲しい〉
「ある人物?それは誰ですか?」
〈…すまん、今から送る住所に行けば分かるから…何も聞かずに行ってくれないか?〉
「ブライト艦長?」
ブライトの歯切れの悪い物言いに疑問を感じながらも、ブライトからの依頼を断れる訳もなく。カミーユはその奇妙な依頼を引き受ける事にした。
数日後、カミーユは地球に降りてブライトに指示された場所へと向かう。
指示された場所は、欧州にある田舎町で、大きな山々に囲まれた美しい所だった。
住所を頼りに歩いて行くと、一軒の小さな家に辿り着く。
玄関の呼び鈴を押そうと手を伸ばした時、裏庭から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
カミーユはまさかと思い、急いで裏庭へと回る。
そしてそこで、思いもしなかった人物を見つけ、驚きに目を見開く。
元々華奢だった身体は、更に中性的なラインへと変わり、癖のある赤茶色の癖毛も伸びて、後ろに一つで纏めている。
その為、一瞬男性なのか女性なのか分からないくらいだったが、それは間違いなく自分の知る人物で、カミーユは思わずその人物の名前を呟く。
「……アムロ…さん…」
その声に、目の前にいる人物がこちらに振り返る。一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに満面の笑みを浮かべて自分の名を呼んでくれた。
「カミーユ?」
そして驚きで固まってしまった自分の元に、歩み寄って来てくれる。
あの時、シロッコと共に死んでしまったと思っていたアムロ・レイが、今、目の前に立っているのだ。
カミーユは何度も瞬きをして、その顔を確かめる。
「本当に…アムロ…さん?」
「ああ、アムロ・レイだよ。カミーユ、久しぶりだな」
にっこりと微笑むアムロに、思わず抱きつく。
そして、年甲斐もなく泣いてしまった。
しばらく泣いて、ようやく落ち着いた頃、足元に小さな子供がいる事に気付く。
「アムロさん…この子は…?」
アムロと同じ赤茶色の癖毛に、アムロによく似た顔立ち。しかし、その瞳はあの男と同じブルーグレイをしていた。
「…ま…さか…」
アムロは小さく微笑むと、子供の頭を優しく撫ぜる。
「カミーユ、立ち話も何だから、良かったら家の中にどうぞ」
「あ…はい」
アムロに促され、家の中に入って行くカミーユを、子供が不思議そうに見つめる。その瞳は、自分が殺したあの男と同じで、カミーユはズキリと心が痛む。
『…パプテマス・シロッコ…』
家に入ると、狭いながらも明るいリビングのソファへと案内される。
マグカップに煎れたコーヒーを手渡され、アムロは向かい側のソファに座ってこちらを見つめる。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ここにはブライトから言われて来たのか?」
「はい…近況を教えてほしいと頼まれました」
「…そうか…。ブライトには元気だって伝えておいてくれ」
「はい…。アムロさん…生きて…生きていてくれたんですね!俺…アムロさんはあの時シロッコと一緒に死んでしまったかと…」
また涙ぐむカミーユに、アムロが小さく微笑む。
「ああ、俺も死んだと思ったよ。でもあの時…最後の最後で、アイツは俺を手放した…。俺をギュッと抱き締めてから…笑って俺を離したんだ。“自由になれ”って言って…」
語るアムロはそっと目を伏せる。
「アムロさん…」
「正直、アイツの事は嫌いだった。無理やり番いにしたアイツを憎んでた。だけど…契約に縛られた身体は、シャアを求める心を裏切ってアイツを求めた。当時はそれが一番辛くて…一層俺を追い詰めて行ったんだ」
その事に、側で見ていてカミーユも気付いていた。
そしてそれはクワトロ大尉も気付いていたと思う。だからあまり強引にアムロを奪おうとはしなかった。
「でも、あの爆発でよく無事で…」
「ああ、運良くコックピットは無傷でね。ジェリドが回収してくれたんだ」
「ジェリド…・メサですか?」
「うん、実はあの後、爆発に巻き込まれた時の衝撃の後遺症か、番いを失った事によるショックか分からないけれど、しばらくの間、俺は人形みたいになってたみたいでさ、アイツがずっと面倒を見てくれてたんだ」
自分は全く覚えていないけど、とアムロが肩をすくめる。
「それで、モビルスーツにも乗れない俺は用無しになって、またニュータイプ研究所に送られそうになったんだ」
「え!?」
“ニュータイプ研究所”、アムロに非人道的な実験を行い、フォウやロザミア達のような強化人間を生み出した場所。
戦後、ブライトから自分もニュータイプ研究所から狙われていたと聞いた。
アムロの助言により、ブライトが守ってくれたお陰で自分は送られずに済んだのだ。
「大丈夫だったんですか?」
「ああ、ジェリドがブライトに連絡をとってくれて、その伝手でここまで逃してくれたんだ」
「ジェリドがブライト艦長に!?」
「まぁ、ティターンズもエゥーゴもそのまま連邦に吸収されたからな。連絡は取れたんだろう」
「そりゃそうですけど…。良く連絡取りましたね」
かつてアーガマに潜入してコロニーレーザーの制御権を奪ったり、執拗にカミーユを狙ってアーガマに攻撃を仕掛けてきた人物だ。遺恨が無いわけがない。
「本当に…かなり悩んだと思うよ。でも俺の方も研究所の連中が動き出して切羽詰まってたみたいだから、ブライトに連絡する以外なかったんだろうな。お陰で俺は今こうして生きていられるんだ、本当にジェリドには感謝してるよ」
「ジェリドは今どこに?」
「ちょっと前までは一緒に暮らしてたんだけど、俺が落ち着いたのを確認して軍に戻っていったよ」
アムロは子供の頭を撫ぜながら微笑む。
子供も嬉しそうにアムロに甘える。
「大人しいですね」
「ん?ああ、実はこの子喋れないんだ」
「え?」
「声帯や脳に異常は無いし、言っていることもちゃんと理解してるんだけどね。産んだ時の俺の状態が状態だったからその影響かもしれないな」
「そういえば…アムロさんはいつ回復したんですか?」
「この子を産んだ時だよ。そもそもオメガとアルファの番い契約はアルファの遺伝子を残す為のものだからね。それが成し遂げられた事でその呪縛から解放されたのかもしれない」
アムロは徐に襟元を緩めて首の後ろをカミーユに見せる。
「ほら、気付いたら噛み跡も綺麗に消えてた」
「あ…」
「でも、まぁこの子がアイツの子供だっていう事には変わりないんだけどな」
こちらを見つめる子供の瞳に、カミーユは複雑な想いを抱える。
「アムロさんは…」