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女体化ジルヴェスターの災難~腐女子の養女・前編~

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怜奈とアリス



 彼女はアリス。旅商人の夫婦の子だ。年は5歳。しかし随分小さくて3歳くらいにしか見えない。
 彼女はしょっちゅう熱を出す。旅商人には負担が大き過ぎたのだろう。
 ある夏の夜。見張りも居ない小さな神殿の前に捨てられた。熱が下がった夜に捨てたのは、せめてもの愛情だった。
 迎えに来るから、と言う出任せを信じる程、疑い知らずでは無かったアリスは事情を既に察していた。座り込んだアリスは不安と絶望から再び熱に苛まれた。そして小さくなる意識に、私の手が伸びた。

 …私は水無怜奈。父親は政治家。母親は大企業の娘。長男は父親の跡を継ぐと言い、次男は母方の祖父の跡を継ぐと言っている。
 3番目で長女の私は、上流家庭のお嬢様として、様々な教育を受けてきた。お陰でストレスが半端無い。そんな私は趣味が高じて、ハードもソフトも完璧になり、コンピューター関連の職に付き、プログラマーとして頭角を現しながら、大好きな漫画やゲーム、ラノベにアニメと中々に充実した毎日を送っていた。
 30手前で婚活を初め、同じ趣味の人と付き合い、33歳を迎える今年、結婚を決めた。
 そして仕事帰り、デートへの待ち合わせ場所に向かおうとした処、交通事故にあった…、と思う。最期の記憶は迫り来るトラックのライト。痛みは無かった。
 そして私はアリスと1つになった。

 転生した私は、不思議と前世に何の未練も無かった。アリスが受け継いだ「怜奈」は記憶と思考はあったが、感情は引き継いでいなかった。寧ろ感情は両親に捨てられた事実から発生していて、そこで止まっている気さえした。アリスの感情が残り、怜奈の感情を消した。

 生きる為に。

 絶望に負けない意識と未練に駆逐されない心を得る為に。
 私はアリスの多くはない記憶を探り、気付く。

 ここは本好きの下剋上の世界だ、と。