神殿長ジルヴェスター(5)
ルッツとの帰り道。フランから事情を聞いたルッツから質問が出た。
「何で腹が減ってる、食い物が足りないって分かってるのに、孤児達はじっとしてんだ?
自分で森に行って、取りに行けば良いんじゃないか?」
その言葉に閃きが光る。
「孤児は外に出られないのです。マイン様の命で、外にお遣いで出る私達側仕えが例外とお考え下さい。」
ルッツがフランに続ける。
「じゃあさ、全員を側仕えにして命令すれば良いんじゃねーの?」
「それは現実的では…。マイン様が全員分の支度金を用意なさる事になりますから。」
「森に行く服なんか大したモンじゃなくても良いじゃん。それならフランが今着てる服一着で、50~60着は買える筈だぜ。」
「えっ!?」
フランが驚いている。私は会話の間で整理出来た案を口にする。
「フラン、元々孤児達が外に出られないのは神殿の不文律でしたわね。今の神殿長が…、ジルヴェスター様が決めた規則では無いのですよね。
…でしたら孤児達が森に行って、自分の食料を取ってくる許しならすんなり出るのでは無いかしら。
それに出来たら孤児達に働く事を教えたいのだけれど、それが断られたとしても、或いは上手く行かなかったとしても、子供達が今以上に悪くなる事は無いわよね。」
「マイン様、働くと言うのは…。」
「孤児院をマイン公房にするの。場所は神殿だから、普通の工房長と違って、工員を路頭に迷わす心配は無い。公房長としての責任はベンノさんに聞かないと何ともだけど、普通に公房長をやってる人よりは軽いと思うの。それにズルいけど、結局は神殿長の肩にのし掛かるもの。」
全ての責任を負うのは怖いけど、神殿の中と外に両方に分散出来る当てがあって、実働にはフラン達が手伝ってくれる。それに…。
「ねえ、ルッツ。力を貸してくれる?」
「当ったり前だろ!」
うん、これで百人力だね!! ルッツが居るなら怖くないよ。
…因みにベンノさんにも相談したら。
「このド阿呆っ!!!!! 貴族に喧嘩売ってんじゃねえっ!!!」
が第一発声でしたまる
フランにアドバイスを貰って、神殿長に話をする時間を取って貰った。
…貴族ってメンドクサイ。貴族ってまだるっこしい。何度となく思ってしまったが、口にすればデリアからの説教があると分かってしまってからは、口に出さない様に気を付けた。
そうして、話し合いの時がやって来た。
「神殿長、孤児院を私に任せて頂きたいのです。勿論、総監督である神殿長には詳細を御報告申し上げます。」
私の切り出しに、神殿長は静かに尋ねた。
「其方はどうする積もりなのだ?」
「最終的に孤児院に居る子供達が自立して生活出来る様に致します。」
「それは今までとどう違うのだ?」
神殿長は首を傾げた。
「今のままでは子供達が自立するのは難しいと思います。神殿長の施しだけでは彼等の生活基盤が整えられておりません。」
「…続けよ。」
反論があるかと思ったけど、続きを促されただけだった。
「青色を纏われる方が十分に居られた時機は、食が充分にあり、孤児院に居る子供達の心にも余裕が持てました。孤児院に食べ物を搬送する灰色の者達も、彼等の様子を見るゆとりがあった筈です。
故に生活に必要な、最低基準が維持されて来たのです。衛生面もかなりしっかりとされておりました。」
「ほう…。」
相槌だけだったので続けた。
「自立について、指導出来る者も居た筈です。上の者が下を教え、下が上に習う。人間関係もきっちりと構成され、それが巡って貴族に仕える者が育つのです。ですが今はそうではありません。指導者は自分の事で精一杯ですし、下にとって習うべき相手ではなくなっております。生活の場はどんどん荒れ、暮らしていく内に家畜の様になっていくのです。
神殿長は貴族として、最低限の事をしておられると仰いました。ですが貴族ではない私には、それで終わりたく無いのです。ですから…、彼等の生活向上の為、私に孤児院を監督させて下さいませ。」
「そこまで言うなら構わぬが…、責任は持てるのか?
こう言っては何だが、其方の都合で無くなる施しなら、許す事は出来ぬぞ?」
私はその言葉に、反射的に怯えそうになる心に活を入れる。
「責任を持つ事は怖いです。でもあの汚い場所で御腹を空かせている子供達が、僅か壁一枚隔てただけの処で生きているのです。知らなかった頃には戻れません。
家族と居ても、図書室で本にドップリ浸っても、気付くとあの光景を思い出してしまいます…!
放っておいてもあの子達の生活は何も変わりません。けれど私が手を出せば、生活を向上出来るかも知れません。少なくとも神殿長が責任を持って下さる現状より悪くなる事はありません。
それならば覚悟を決めます。決まらないでいても、私の心に平穏は無いのですから。
…平穏が無ければ読書も楽しめないのですよ。」
精一杯の想いを込めた。
「話は分かった。覚悟があるならば認めよう。ただし私には総監督として、具体的な指針と行動を話して貰う。良いな?」
やった!!!
「まず最初に掃除を行おうと思います。理由は新たに孤児院長を迎えるから、では如何でしょう。」
「ふむ、良かろう。」
「掃除が終われば食事を与えようと思います。ただし報酬として。」
ニコリ。
「神の恵みではなく?」
「はい、子供達には仕事をすると言う事を学んで貰います。能動的に生きる為です。神の恵みが足りなければ、自分で食べ物を探せる様に。これは実地で外出する事を覚えて貰おうと考えています。
そして仕事ですが…、彼等をマイン公房の従業員としたいと思います。」
さあ、神殿長は何て答えるだろう。
「ほう…。予想以上に考えたのだな。…良かろう、やってみよ。」
ヒャッホーッ!!!!!!!! 神殿長大好きになったよっ!!!
続く
作品名:神殿長ジルヴェスター(5) 作家名:rakq72747