神殿長ジルヴェスター(6)
ジルヴェスター視点
孤児院の大改造。私が直接関わる事は無かったが、子供達の生活環境とやらは一気に変わった。様子を見に行けば、その違いには眼を剥いた。これがマインの言っていた事か…。
子供達に労働を教え、外に出し、自らの手で食糧を手にする事を教え…、ん?
「マイン、そう言えば何処でこの食事の原料を手にしているのだ?」
最初は平民の店で買っていると思ったのだが、帰ってきた子供達の服に泥が付いているのに気付いて、首を傾げる。買い物だけで汚れるものだろうか…?
「何処って…、森ですが。」
「森っ!?」
森…、獲物…、狩り!!!
「え、あの、何かマズイのですか?」
いかん、私の反応に誤解させた。
「そうではないっ!!! マイン、下町には森があるのだなっ!? 私も行きたいっ!!! 連れて行ってくれっ!!!!!」
私は狩りが好きだ。おべっかばかりの連中には嫌気を差していたが、それでも狩りを好んでいたのだ。
しかし貴族街に行く事が無い今は、そんな趣味に興じる事は無かった。
だが下町にも森がある。それならば下町で狩りをすれば良いのだ。幸い私物には弓があるし、問題は何も無い。
「え、あの神殿長…、貴族街の森に行けば良いのでは?」
「貴族街の森より下町の森が良いのだっ!! 直接孤児を連れていくのは誰だ? ルッツか?」
「そうですけど…。」
チラリ、と動いた視線の先には大口を開けたルッツがいる。
「ルッツ、次は何時森に行くのだ?」
「え、えええっ?」
「まだ決まってないのか? なら決まったら教えてくれ! ああそうだっ、平民用の服も必要だな!! ギュンターに借りといてくれっ!!!」
久々の狩りだっ!! 今から楽しみであるぞっ!!
約束の日。この日の為に仕事は前倒しで片付けた私は待ち切れず、随分早くに孤児院についてしまっていた。
「遅いではないか、マイン!」
マインについ文句を言ってしまったら、呆れた顔をされた。
「遠足前の子供…。」
何か言ったか?
「神殿長、これだけは言わせて下さい。」
突然、ハッとしたかの様に詰め寄ってきた。
「何だ?」
「下町の森には下町の決まりがございます。狩りをする場所と採集場所は離れておりますし、他の狩人との決まりもございます。暗黙の了解になっている事も多いので、ルッツの言った事にお従いして下さいませ。」
成程、貴族の森にも決まりがあるからな。
「初めての場所だからな、先達に従うのは当然であろう。
ルッツ、今日は宜しく頼む。」
ルッツに向かって笑うと、困った顔をしながらも、了解の意を示した。
久々の狩りは楽しかった。おべっかではない、純粋な称賛もより気分を高揚させる。連れて来て貰った礼にと、ルッツに幾つか獲物を提げ渡してから自分用を取り分け、その残りを孤児院に渡す事にした。
…もの凄く喜ばれた事は気分が良かったが、マインの視線がジトッとして怖かった。
作品名:神殿長ジルヴェスター(6) 作家名:rakq72747