神殿長ジルヴェスター(7)
ジルヴェスター視点
この処、私はとてもご機嫌だ。随分と御無沙汰だった狩りが本当に楽しかったのだ。獲物を分け与えるからか、ジト目で見てくるマインだが、助かるとは言っていた。その不思議な笑顔がまた可愛いのだ。
…ブラウが人間だったら、あんな感じだろうか。だとしたらとてもモテるだろう。何せ年齢に不釣り合いな色気を醸し出す時があるからな。
はっ、私はそんな趣味ではないがな!
「…マイン、どうしたのだ?」
マインが貴族らしさを取り繕える様になった頃から、私は神殿長室で書類仕事を任せる様になっていた。
…ベンノから話を聞いた時から待っていたのだ、この時を。
マインの処理能力は嘘偽り無かった。とても使える。…半面、マインが居る時は全くサボれなくなったが。…マインは厳しいのだ。
そのマインだが、何だか元気が無い。だから心配して(本当だぞ)聞いてみたのだが、本人は隠そうとするので、頬をつついてやった。
「ちょ、神殿長、」
「ぷひっ、と鳴け。」
「ぷひ、ぷひ、ぷひ…。」
明らかなる不満顔である。
「マイン、その様な顔で鳴くでない。構ってくれて嬉しいと言う顔で鳴くのだ。」
「無理です。」
「その様に不満は言える癖に何故悩み事は言わないのだ? ん?」
再度促してやると、マインが溜め息を吐く。
「平民同士の悩み事なのです。」
平民の悩みか。マインの謎解きには役立つかも知れぬな。
「構わぬ、まず話して見よ。」
「実はルッツの事何ですけど…。」
ほほう、マインの闇の神か。私はちょっとワクワクした気分だ。…仕方なかろう、可愛い恋物語に心を癒されたいのだ。だって私は…。
「家族と縁を切って、ベンノさんの養子になるかもって話が出てきてるんです。」
穏やかではないな。平民にとって家族は絶対な絆だろうに。
「詳しく話してみよ。」
「あっ、はい。えっと…、」
何処から話そうか考える素振りを見せた後、一つまた息を吐いて、話し出した。
「ルッツは…、男兄弟の末っ子のせいか、力付くで自分が抑えられる環境で育ちました。この事自体は平民の家族では良くある話です。
ただ…、ルッツは負けん気も強くて頑固で…、親の勧める職人職ではなく、自由そうな旅商人になりたいって思うようになりました。」
「現実的では無いな。」
旅商人の元は何らかの罪を犯し、領地を逃げ出し、市民権を失った者の子孫だと考えられている。
最も本来はメダル廃棄の罪を犯している者で、貴族の領分での知識な為、平民は知らない者が多く、元になった事件が遠くなればなる程、子孫達にも自覚がない。
その為、他領の品物を売る彼らを受け入れる得を考えて、金を払えば市民権を得られる様になったのは、大分昔の話である。
ともかくも市民権を手放して、危険を伴う旅商人等なるモノではない。
「はい。でもルッツの両親は、それが本気だと思わなかったんです。何故駄目なのかを説明しないで、頭ごなしに怒鳴るだけだったみたいで…。私が理由を知ったのはルッツ経由ではなく、元旅商人の兵士から教えて貰ったからです。
その人は普通の商人なら紹介出来ると言ってくれたので、洗礼前の事ですが、ルッツの就職先として、斡旋させて貰ったんです。」
「それがベンノのギルベルタ商会か。」
私は頷いた。
「はい。ルッツは合格を貰えたので、洗礼後、ギルベルタ商会のダルアになりました。」
「ダルア?」
下町の事情にはまだまだ疎い私には、その言葉が分からない。
「見習いの事なんですが…、」
マインはダルアとダプラの事を教えてくれた。
「ふむ、良かったでは無いか。それで何が問題なのだ?」
「…ルッツの両親は商人になる事自体を反対してるんです。商人は悪どいから駄目だって決め付けているみたいで。」
悪辣かどうかは人に依るだろうと思うが。
「ベンノさんはルッツを買ってくれていて、町の外に、新しい店作りに同伴させようと考えておられるのですが、ルッツの両親の許可が必要になるんです。」
「未成年者だからな。」
事情に疎くても、そのくらいなら予想が着く。
作品名:神殿長ジルヴェスター(7) 作家名:rakq72747