神殿長ジルヴェスター(7)
「でもルッツの両親が許可を出さないから…、それならベンノさんが最悪無理矢理にでも養子縁組でって。
ただそれはやりたくないんです。ルッツの為に家族は拠り所であるべきだと思うんです。ベンノさんもそれは本当に最後の手段だって。店の利益を第一に考えてしまう自分じゃ、親として相応しくないって。これはオットーさん、妹の旦那さんに言われたみたいですけど。」
…フェルディナンドの幸せを考えてはいたが、あくまでもエーレンフェストを第一に考えた上での話で、そもそも貴族は領地の為、家名の為、絆を結び、絆の判断材料に魔力を測る訳で、我が子でさえその例外にはならない。平民と貴族の差が感じられる話だ。
「ルッツは今、ベンノさんの処で生活しています。両親だけでなく、兄弟達にも理解されていなくて、耐えきれなくなって家出したんです。
私はルッツから話を聞いたりしましたけど、ルッツの家族からは何も聞いてません。
只、圧倒的に会話が足りなくて、拗れに拗れている様に思うのですが…。」
ん? 家出? あれ? 待て待て。ちょっと待て。ルッツは自分の意見を家族に分かって貰えなくて、自分で決めた仕事場に家出した。
じゃあ私は? フェルディナンドと意見が衝突して、神殿入りした。
…ひょっとして、ひょっとして…、事情は全く違うが私とルッツは同じ行動に出てるのでは無いか!?
「思わぬ共通点…。」
「え?」
子供と同じ行動に出る自分に何とも言えない気分だ。だがそれ故に、ルッツには私には無理な事をやって欲しいとも思う。
家族と和解し、商人の仕事を貫く道を。平民は貴族とは比べる事も出来ぬ程に、家族との心の繋がりに安らぎを覚えるのだから。
「…マイン。」
「? はい。」
「私が何とかしてやる。」
「え?」
「ルッツの両親と話し合ってみよう。落ち着ける様に(喧嘩腰にならぬ様に)私だけが良いな。」
ぽかーんとするマインを置いて考える。神殿はルッツもベンノも出入りしている。私が出向く方が良かろう。ベンノ達にも事後報告が良いだろう。事前に貴族が動くと分かれば、動かずにはおられぬだろうからな。
「よしマイン、今日の夜であればルッツの両親と話し合えるか?」
「…本気ですか…?」
恐る恐る聞くマインに頷く。
「ルッツには森で世話になってるしな、恩返しだ。」
…何だ、その心配そうな顔は。私はそんなに信用ならぬのか?
作品名:神殿長ジルヴェスター(7) 作家名:rakq72747