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神殿長ジルヴェスター(10)

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ジルヴェスター視点



 フェルディナンドが帰った後、私は頭を痛めている。何故また急にマインを愛妾にと言い出したのか…。
 フェルディナンドの手は確かに珍しい訳では無いが、それは既に結婚している場合だ。子が出来なかったり、出来ても魔力が少なかったりした場合に取られ易い手だ。
 無論、魔力が足りていても、愛妾の子が優秀であれば引き取られ、上手く行けば第一夫人の子として育てられる。そうでなくとも貴族として教育を受けられる。
 まあフェルディナンドの場合みたいになる可能性もあるが…。
「神殿長、宜しいでしょうか。」
 マインが話し掛けて来る。
「どうした?」
「領主様の愛妾に、と言うのは実際に有り得るお話なのでしょうか? 正直、牽制目的の愛妾関係が整うのは後が怖いのですが…。」
 牽制? 
「有りか無しかで言えば有りだが、どう言う意味だ?」
「どう言うって…、領主様って神殿長に依存してるじゃないですか、感情的に。」
 ギクゥ!!!!
「神殿長から引き離したいけど、私を傷付けて神殿長に嫌われたくないって言う気持ちが言動の端々から感じられましたよ、普通に。」
 ギクギクッ!!!!
「多分、意図的に気付かされたんでしょうけど、“愛妾になれ”と言う言葉の裏は“僕のお兄ちゃんを取るな”、でしょう?」
 ひ、否定出来ぬ…。確かにそうかも知れぬ。となれば愛妾にと言うのは本気と言う事か。
 …仕方無い。出来れば知らないままで居て欲しかったが…。
「マイン、その話は神殿長室でしよう。フラン、其方も聞いておけ。」
 マインに関わる事で、しかも何れ、では無い。
「畏まりました。」
 アルノーも含め、4人で神殿長室に入ると、盗聴防止の範囲を設定した。そして話し出した。
「フェルディナンドは其方の事業に興味を持っているのは事実。エーレンフェストに必要になると見ている。程なく領主お墨付きになるであろう。」
 マインは目を丸くしている。考えた事も無かったのだろう。
「加えて其方自身の魔力量。ハッキリ言った事は無かったが、現時点で私より上、エーレンフェスト内第2位だ。」
「ええええっ!!?」
 マインだけでなく、フランもアルノーも驚いている。
「第1位は領主であるフェルディナンドだ。その魔力の高さが仇となり、結婚相手を探すのが難しい(探そうともしてないが)のだ。
 と言うのも、平民と違い、貴族にとって血を残すのは絶対、子供を持たねばならないからだ。」
「はい?」
「魔力が釣り合わなければ、子が成せないのだ。現在、エーレンフェストの貴族内で、フェルディナンドの子を産めるであろう女性は数が少なく、皆、既婚者だ。」
「うわ。」
「領地外で選ぶなら、相手も見つかるのだが…。」
「出来ないのですか?」
「一番の問題は魔力の高さではなく、それを言い訳に結婚相手を探そうとしないフェルディナンドだな。」
「もしかして、その理由って…、」
 気付いたらしい。
「フェルディナンドは能力は私を軽く越えているのだが…、其方が気付いた様に、どうにも情緒的に私に依存しているのだ。そのせいで周りの人間の好意を見ようともしない。」
 依存、と言うマインの言葉を借りる。恋情とは隠しておきたい。
「女性不信と人間嫌いが混ざっているから余計酷くてな。」
 マインが目を細め、尋ねる。
「何かあったんですか?」
「まあ、貴族関係のあれやこれやがな。」
 流石に情報規制も掛かった事もある事実は黙っておかなければならない。けれど、その残忍さは伝えて置かなければならないだろう。
「私はそれで、母をこの手で殺めた。」
「!!!!!!!!!」
 声にならない悲鳴を押し殺したのが分かる。フランやアルノーも息を呑むのが分かった。
「私が神殿に来る事になった理由でもある。」
 当たり前だが神殿にいる誰にも言っていない事だ。
「フェルディナンドは私の決断を正しいとしているし、今の主力派閥の貴族もそうだ。…私自身、間違ったとも思わない。」
 いや、そう思わなければやってられなかった。
「だが罪は罪。情勢が変われば、何時牢獄に行くか分からない。
 そんな私が、フェルディナンドに必要以上に近付いてはならないのだ。」
 マインの体が奮えている。マインにしてみれば、エーファを殺す様なモノ、致し方無い反応だ。
 マインにとってはきっと許しがたい事実。私はもう近付いては貰えぬだろう。
「だが…、私とフェルディナンドの父は病死、私の母は先程言った通りで…、フェルディナンドの母は姿も見せず、名乗りも上げられない、姉は他領に嫁ぎ、兄は…、兄も高みに昇っている。」
 ズキリ。音を立てて、痛む胸には気付かない振りをしたまま、真実を隠しながら続ける。
「私はそれでも信じられる者も、好む者もいる。だがフェルディナンドはそうではない。」
 名を捧げた相手だから裏切らないと信用しても、能力が高いから重宝しても、ただ純粋に信じる相手がいない。
「だから私に依存した。」
 顔色が悪い。本当に聞かせたくなかった。知らせたくなかった。何より…、言いたくなかった。
「…例え最初はぎこちなくても、結婚して、フェルディナンドの家族が出来れば、きっと変わると思うのだ。
 だが現状、フェルディナンドはその気さえ無い。」
 私しか居ない、と言われた事を思い出す。
「どんな理由であっても、其方を愛妾に本気で望むのは、何かの切っ掛けにはなるかもしれぬ。だが…、」
 私は言葉を切る。
「本気で子を作る気があるのか、出来た事がエーレンフェストを混乱させる事にならないか…、正妻を得ぬままの今では賛成が出来ない。」
 私の言葉に不安そうな顔になる。気付いたのだろう。
「正妻がいれば、私が愛妾になっても良いと…?」
「私は…、其方には幸せになって欲しいと思っている。貴族の愛妾よりもルッツと結ばれる方が良いと思う。」
「え、あの、えっと…、」
「其方の幸せか、フェルディナンドの幸せか…。天秤に掛ける事はしたくない。何故なら私は領主一族だからだ。
 フェルディナンド側に、エーレンフェストの為に、が加えられるならば、私の天秤は其方には傾かぬ。…すまない。」
「神殿長…。」
「…最初は、其方を大事に出来る様な上級貴族の愛妾にと、考えないでは無かった。だが、其方の価値観を考えるなら、養女の方が良いと思い直した。
 其方は利用価値が大きい。多額の金貨を生み出し、魔力の大きさは現時点で領主一族に匹敵し、成長して魔力が更に増えれば、王族にも引けを取らぬかも知れぬ。
 私は其方の魔力を神殿では極力隠し、神殿外の人間の前でそれを大々的に見せた上で、信頼が置ける上級に魔力以外の価値を教え、其方の自由が保証される形で、養女の契約を成すつもりだった。
 …まさかフェルディナンドが愛妾に、と考えるとは思わなかった。」