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神殿長ジルヴェスター(10)

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 私は自分の顔を隠すように下を向いた。マインもそれに吊られた様に下を向く。
「…………。」
 ふと頭に手を伸ばしかけて、引っ込めた。母を殺した手だと知った今、触れられたく無いかもしれない。
 そうして元の位置に手を戻そうとした時だった。
「!」
 その手を、マインの小さな両手が掴んだ。
「…神殿長、ありがとうございます。」
「…マイン?」
「神殿長が私を守って下さっている事は解っています。それも、私が考えている以上に。」
 マインが私の手を握る力が強くなる。
「私は…、神殿長の手が好きです。抱き抱えられるのも、頬を突かれるのも、頭を撫でられるのも、全てこの手にある優しさを感じられますから。」
「私の手を…、汚いとは思わぬのか?」
 疑問を口に出すと、マインは首を振った。――横に。
「私には貴族の事は分かりません。でも、神殿長が傷付かない訳が無い事も、罪悪を持ちながら生きている事も予想が付きます。
 ――本当は語りたく無かったでしょうし、また語る必要もありませんでした。私は平民ですから。
 それでも語って下さったのは、私に現状を知らせる為でしょう? 幾ら神殿長が反対しても、領主命令が出ればどうしようもないから。」
 その通りだ。もしフェルディナンドが今すぐに愛妾にすると決めてしまえば、私にはマインを守れない。
 今すぐ、マインの居場所が変わるかも知れない。だからフランにも同席させた。もう待て事が効くも効かぬも、私の意志ではどうしようも無い状態だ。
「もし本当に…、領主様が私を愛妾にしたら…、私はどうなりますか? 領主様が仰られた条件は叶うのでしょうか? 神殿長の率直な考えをお教え下さい。」
「叶う。フェルディナンドは嘘を吐いていない。約束事に等しい言葉を、理不尽に破ったりはせぬ。…悪い男では無い。それは保障する。」
 ふにゃっと顔が崩れる。笑い泣きの様な表情だった。
「そうですか。…覚悟が決まりました。」
 自分の無力さに歯噛みしたい気分になる。こんな幼子を…。
「神殿長、1つだけお願いがあります。」
「何だ、マイン。」
 決めた覚悟を揺らさぬようにするしかない私は、何事もない顔で受け止めてやる事しか出来ない。
「その前にお話させて貰いますが…、神殿長は私がルッツと一緒になるのが一番幸せになれるって言いましたね。」
「ああ。」
「それは絶対に有り得ない事です。」
「? 何故だ。」
 思わぬ否定に尋ねる。
「下町の価値観で奥さんにしたい条件の1つは、丈夫である事です。増しては貧民層であれば尚更です。
 確かに平民に血を残すと言う意思はありません。でも子供は労働力の1つなので、子を作らない選択は無いんです。更に貧民達は夫婦供に共働きが当たり前です。
 健康で良く働いて、子供も産める。下町で考えられる必要な条件です。
 だから私は結婚出来ません。虚弱体質で、直ぐに倒れる私は足手纏いです。私とじゃルッツが可哀想です。
 例え領主様の命令が無かったとしても、私は一生独身です。」
「それは…、」
 平民の常識を知らない私は、マインに何を言うべきか分からない。
「私の御願い事は唯1つです。」
 そこにマインの言葉が重ねられる。
「もし領主様が結婚されて、子供が生まれ、愛妾になれと命令されない未来があるなら、
その未来でも、神殿長が神殿長であるままなら。…その時は、神殿長が私を愛妾にして下さい。」
「は、え、ええ?」
 何を言われたか一瞬分からなくて、動揺してしまった。
「貴族の愛妾になるなら、私は貴方が良いです。例え子供が産まれても、貴方なら一緒に悩んでくれるでしょう?」
「……っ!」
 内容が頭を巡っている。…確かにそれが良いかも知れない。
 フェルディナンドが落ち着けば、私が望んで神殿にいる事も出来る。神殿にいるままならば、どうせ結婚は出来ないのだから、マインを唯大事にしてやれる。
 魔力持ちの子供が生まれても、ギルベルタ商会と領主が繋がっていれば、有利な条件で事を運べる。

 私がマインを――――? 

 ふと視線を感じた。…フランとアルノーをすっかり忘れてた。生温い視線を向けるでないっ!
「マイン…、その…、」
「はい。」
「成長した其方を女性として見るのは出来るだろうが…、その、女性として扱えるかどうか…、閨事には自信が無い…。」
 お陰で重要な案件を思い出した。うう…、カッコ悪い…。フラン、アルノー、何か納得と思ってないか? 完璧に表情を取り繕っていて分からぬ!
「出来なければそれで構いません。」
 マインの顔が赤い。同時に…、嬉しそう? 
「ですから…、御願い…、駄目ですか?」
「いや、まあ…、そうだな。そんな未来が来たなら。…約束しよう。」
 マインの瞳が輝く。
「神殿長、こうして下さい。」
 掴んでいた私の手で拳を作らせる、いや、小指だけは立たされていた。
「?」
「指切りって言うんです。約束する時にします。」
「平民の作法か?」
 同じ形を作ったマインに尋ねる。
「いえ、夢の中での、子供同士の決まりです。」
「???」
 マインの小指が私の小指に絡まる。胸の鼓動が少し大きくなった気がする。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、はーりせーんぼーんのーます、ゆーびきった!」
 リズムを取るように、手を小刻みに振り、最後に勢いを付けて、小指を離す。
「ふふん、これで約束が締結されました。」
 満足そうな笑顔に私も釣られて笑った。…フランもアルノーも笑っていた。決して叶わぬ無邪気な約束に。