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神殿長ジルヴェスター(10)

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 シキコーザの勝手な言い分に、フェルディナンドの命が飛ぶ。
「確かにマインは平民だ。身分差は考えられて然るべき。よって処罰は其方1人とする。」
「…は?」
「追って沙汰を言い渡す。カルステッド、それで良いな。」
「はっ、ご配慮、痛み入ります。」
 カルステッドが跪く。…本来ならシキコーザを選んだカルステッドも処罰の対象だからな。
「お、お待ち下さいっ!! 何故っ、」
「言わねば解らぬか、愚か者。」
 フェルディナンドの冷たい視線に晒されてもまだ食いつくのか。ある意味感心するな。
「マインは魔力の多さを見込まれ、神殿が特別に青色を纏う事を望み、領主が許可を出したのだ。
 現在、エーレンフェストでは魔力が足りておらず、貴族の穴埋めを神殿が行ってきた。
 では神殿の穴埋めはどうしてきたか。これは私より神殿出身の其方の方が知っておろう、シキコーザ。
 神殿の穴埋めは、神殿長たる我が兄、ジルヴェスターが行ってきたのだ。兄上が必要としたマインが儀式を行うのは、兄上とマイン以外では不可能だからだ。神殿に十分な魔力があるなら、この場に態々連れて来る筈が無い。
 だからこそ、兄上は特別な存在であると知らしめる行動を取った。それを正しく受け取った騎士団長のカルステッドは、マインに護衛を付けた。万全を期す為に、私は更に言葉で念を押した。
 それにも関わらず、平民と言う一点だけしか見えず、与えられた命に背いた。
 それも唯の命令では無い。領主と…、領主候補生である神殿長に騎士団長…、このエーレンフェストで、尤も身分の高い私と、次点の兄上、更に第3位に等しいカルステッド…、3人の意が込められた命だ。身分差の教育だと? 其方こそ身分を弁えよ!!」
 実際、シキコーザのした事は命令違反に任務放棄だ。対象が平民だから、と許される訳が無い。だがその一方で、平民に対する暴言も暴力も、罪にはならない。
 だからシキコーザ1人が罰され、ダームエルやカルステッドに連帯責任がいかない。無論、シキコーザの家族にも、だ。問題が無い訳では無いが。

 儀式の場へ出た。
「フラン、神具を。」
 フランから神具を受け取り、マインに向き合う。
「これより土地の力を回復させる。まずは私が見本を見せる。マイン、良く見ておくのだぞ。」
「はい。」
「お待ちください、兄上。」
 そこへ声が掛かる。
「フェルディナンド?」 
「戦って魔力を使っている兄上が無理なさる事はありません。魔力も暇も持て余している者にやらせれば良いのです。…シキコーザ、前へ出よ。」
「はっ!」
「其方がマインの見本になるのだ。あれだけの事を言うのだ、マインより優れている自信はあろう?」
 …相変わらず悪辣な手を。私は先程あの激マズ薬を飲まされたばかりではないか。
「はっ!」
 マインを一睨みしたシキコーザに、フェルディナンドが私から神具を取り、渡す。シキコーザは離れた位置へ向かった。
「マイン、私とジルヴェスターが守る価値がある事を見せ付けよ。
 …安心しなさい、余計な事を仕出かしたシキコーザを出すのは、君の引き立て役をさせる為だ。私は勝てない勝負はしない。」
 不安な顔をしたマインに、フェルディナンドは言う。うむ、悪辣だが乗らせて貰おう。マインを傷付けようとした事は私も許していない。
「癒しと変化をもたらす―――――、」
 シキコーザが祝詞を唱え、魔力を流していく。シキコーザを中心にして土地が回復していく。
「まだだ、まだ足りておらぬ。もっとだ。」
 シキコーザの魔力ではここまでしか出来ない事を知りながら、私は先を促す。神具から離そうとした手にまた力が込められる。だが。
「ふん、偉そうな事を言ってこの程度か。」
 直ぐに枯渇状態となり、その場で膝を着いた。
「騎士団も人材不足なのですよ、兄上。でなければあの程度、討伐隊に参加してません。」
 会話しながら私達はスタスタと歩く。フェルディナンドが神具を持った為、私はシキコーザをズルズルと引き摺って、そのまま投げ捨てる。
「マイン、其方の出番だ。…思いっきり遣れ。」
 フェルディナンドが待つ方に、マインの背中を撫でる様に押した。

 「癒しと変化を―――、」
 神具を握るマインの、澄んだ高い声が響く。そして。トロンベに荒らされた土地は、緑の萌ゆる姿へと変わった。