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神殿長ジルヴェスター(14)

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ジルヴェスター視点



 ハルトムート夫妻の扱いはかなり厄介だ。ローゼマインに信望する故に、何処まで私の味方になってくれるかが分からない。だから試してみる事にした。
 神殿に勤めれば、ハルトムート達なら程無くローゼマインの秘密に気付くだろう。その時どうするのか。
 ローゼマインの味方であろうとするか。ローゼマインの味方である為に、私かユストクス、どちらの判断を仰ぐか。
 ―――私かフェルディナンド、どちらをローゼマインの親い人間と取るのか。
 フェルディナンドを取るなら、ハルトムート達には頼れぬ。…出来れば力になって欲しいが。
 私の不安と願いが報われる日は、思う以上に早かった。
「ローゼマイン様は平民なのですか?」
 人払いに盗聴防止。私はハルトムートと向き合っている。
「ハルトムート、他言無用だ。」
 ハルトムートはコクりと頷き、神殿の中で集めた決定的では無い話を纏め上げ、繋ぎ、推測した事実を私に語って聴かせる。…見事だ。
「其方の推測はほぼ正しい。…確かにローゼマインはマインと言う名の平民だった。
 だがエグモンドが他領の貴族を連れて来たと言うのは少し違う。」
「アーレンスバッハを警戒されてましたね。しかし結局アウブの執務室に侵入した人間は不明のままですから、警戒も充分ではありません。
 …エグモンド自身や近い関係者には不可能と言う事までしか解っていないませんし…。少し違うと言うお言葉は…、黒幕がいる、と言う意味で宜しいでしょうか。」
「ああ、それで良い。」
 聞くのではない言葉の響きに私は肯定を示す。
「ではその黒幕は…、フェルディナンド様、ですか?」
「…驚いたな…、まさかこれだけで当てて来るとは思わなかった。」
「恐れ入ります。しかし如何様な手段を用いたのでしょう?」
「分からぬ。」
「は?」
「全く持って分からぬのだ。マインの事だけでなく、兄上一家の暗殺方法もな。」
 序でに事を付け足すと、ハルトムートの目に光が走る。
「薄々は解っていましたが…、衝撃がありますね…。」
 私は軽く溜め息を付く。
「フェルディナンドは…、紛れもなく天才なのだと思う。多数の意味で、な。」
 あの赤子はどこまで受け継ぐ?
「そして私は只の凡才だ。フェルディナンドの様な策は立てられぬ。せめて兄上の様に優秀であれば、まだ立ち向かえたのかも知れぬが…、いや、言い訳だな。」
 あの時、マインを助けない事を納得したのは私では無いか。フェルディナンドの能力を肯定したでは無いか。自嘲の笑みを浮かべ、続ける。
「だから私は足りぬ部分を補える人材が欲しい。ローゼマインを幸せにするに当たって、優秀で、決してフェルディナンドに靡かぬ人材を必要としているのだ。」
 もうフェルディナンドは居ない。例え赤子が記憶を引き継いでも、確実に7年は、私が領地を動かすのだ。良くも悪くも領地の方向を決めるのは私だ。
 今ならば、フェルディナンドを出し抜ける。ユストクスにもエックハルトにも邪魔出来ない建前がある。
 良くて7年、悪ければ―もし赤子がフェルディナンドの能力を全く受け継がなければ―ずっとフェルディナンドの能力に頼れない。
 ならば、これだけ揃えば、ローゼマインに納得出来ない。納得しなくても良い。
「ハルトムート、力を貸してくれぬか?」
 私はハルトムートに視線を合わせる。

 「ローゼマインを、マインに戻す。」

 ハルトムートが跪き、私の手を額に合わせた。