神殿長ジルヴェスター(14)
欲しい。ジルヴェスターが。ジルヴェスターの愛情が。
欲しい。マインが。マインの情愛が。
同時に2人を愛する。…同時に2人に恋する。それは私の箍を外す。事実から涌き出でる感情が、ぶつかり合い、やがては1つになる。
2人が欲しい。愛し尽くしたい。何時だって傍らで、何時までも綴じ込めてしまいたい。
…では愛され返したいか? 否、私と同じ愛情を持ちよって貰えば、双方を愛しく想えば想う程、嫉妬に苦しむのだろう。だからと言って無関心でいられたくも、憎まれたくも無い。
今までを考えればジルヴェスターは何をされても憎む事は無いだろうが、マインはそうでは無いだろう。
…返される愛情は同じでなくて構わない。唯、私が高みに上がるまでは私を包み込み、傍らで支配されていて欲しい。支配を、受け入れて欲しい。
この頃、私はある予感、いや、確信があった。それは自分が長くは無いだろう事。
何度も、短くは無い期間、神の魔術を使い過ぎた。最近、自分を構成している、その基幹となる魔方陣に亀裂が入ってきているのを感じる。修復される前にまた術を使う為、徐々に亀裂が大きくなっているのも。
エアヴェルミーン様より教わった知識によると、このユルゲンシュミットの有りとあらゆる総てが、基幹の魔方陣を持ち、それを覆う形で器が出来るらしい。
人間の場合、その基幹が器より強い場合があり、それが魔力持ちとなる。基幹魔方陣は、器の魔力を造る器官に影響を及ぼし、肉体の限界を破って、魔力を造る。圧縮や吸収や発動が上手く出来ない場合に、魔力が肉体を食い破るのはその為だ。
同時に基幹魔方陣は器に囲まれる為、知識も無しに存在を関知し得ないのは当たり前で、器を傷付けても魔方陣は無事だ。高みに昇って初めて消える。
だが私は人の身には余りに強力過ぎる魔術を使用する為、どうしても基幹魔方陣に負担を掛けてしまい、故に関知し得るモノとなっている。
故に魔方陣に亀裂を入れてしまっていると分かる。壊れてしまったらどうなるか、神にも人にも前例が無いので不明だ。だが想像はつく。…高みに昇るのだろう。どんな昇り方かは分からぬが。
…ともかく自分の先を予見していた為、一刻も早く私の手元に、と焦りもあった。
だから私は口説くのではなく騙した。だから私は説得するのではなく、偽った。
エグモンドと隣領で境にいるビンバルトは都合が良い。あれらと周囲を操る事にした。
許可証はジルヴェスターが領主会議の準備をしている間に、平民に変装させたユストクスに、エグモンドの元へ届けさせた。
因みにジルヴェスターを領主会議に参加させる為、アウブ・ダンケルフェルガーも軽く操った。
…それから約4年。マインとジルヴェスターは私の手元にいる。吹雪の中に綴じ込めて。…幸せだった。
けれどその時はやって来た。私はボロボロに崩れ落ちる基幹魔方陣に、自らの終わりを知った。
肉体に高みに至る傷は無かった。それが救いになろうがなるまいが、最早、私には分からない。
続く
作品名:神殿長ジルヴェスター(14) 作家名:rakq72747