神殿長ジルヴェスター(14)
神殿を監視する。無論、ジルヴェスターの周囲をだ。関係の無い処を見る余裕は無い。唯でさえ、連発は不可能だ。数日を纏めて見る。場合によっては早送りも行うが。
「何を考えているんだ…。」
隠し部屋に灰色巫女を呼んだ事を知った私は、悔しさに体を振るわせる。女だと言うだけで、冬の対象になるのだと思い知らされる。
結局ジルヴェスターは何も出来なかったが、そんな事はどうでも良かった。どんなに願っても、ジルヴェスターから冬を招かれた事の無い私にとって、冬を呼ぼうとした時点で、呼んだのと同じだったのだ。
唯、ジルヴェスターが女を相手出来なくなっている事は希望だった。関係を続けていれば、きっと女に欲を抱けなくなる筈だ。
…何時か私を欲してくれるかも知れない。そう思い、理由を付けて神殿に足を運び、ジルヴェスターを抱き続けた。抱く度に砂を噛む様な空しさと、突き放されない甘い歓びが私の癖となっていった。
マインと言う風変わりな少女を知ったのは、ジルヴェスターの報告が最初だった。監視術を切っている間に現れた彼女は、随分奇異な様だ。
それはともかくジルヴェスターが特別扱いをするのが気に入らない。だからマインの事を知らぬ内から、私は彼女に嫉妬していた。
ジルヴェスターには充分に伝わっていた筈なのに、マインとの仲は深まっていく。恋情に発展しないのがまだ救いだが、距離感もジルヴェスターが故意に庇うのも気に食わない。私は益々深みに填まって行く。
領主としての判断では、稀有な才能を持っているらしいマインを捨て置けない、利用したいしするべきだ。
しかし個人的に言えば、ジルヴェスターの傍から排除したい。
私は自分の愛妾にする事を考えた。正直、アウブになりたいと言う野心を持っていたゲオルグと違って、私は結婚等するつもりは無かった。
跡継ぎはライゼガングの身内から本当に優秀な者を、足を引っ張らない者を養子に取らせて貰う積もりだった。
無論、愛妾等もっと有り得なかったが、背に腹は代えられぬ。そう納得させる私に、苛立ちを与えてくれたのはシキコーザだった。
平民、と言う出自を理由に、理不尽な行為をしても良いと思っている愚か者。命令を軽んじる理由にしている身の程知らず。公私を分けられない未熟者。
…それを羨ましいとさえ思いながら、それをジルヴェスターに知られる恐ろしさを感じ、そんな自分を嫌悪する。
シキコーザを使いながら、マインを守る正当性を主張する。同時にその魔力量に警戒を強める理由を作り出す。
いっそ領主権限で閉じ込めてしまえば良いと判断出来る何かが見付かれば。そう考えながら、私はマインの記憶を覗き込んだ。
記憶の中のマインは無防備過ぎるくらいで、警戒する必要等無いと思い知らされる。これではジルヴェスターと引き離せない。
そう感じたのも束の間、異世界の記憶を見せられるまでだった。此方との、余りの違いに驚きが先行し、理解しようとする事で精一杯だ。
皮肉な事に私はジルヴェスターを想う事を忘れさせられたのだ。
風呂まで勝手に楽しみだし、その慎みとは正反対の姿を晒され、私は完全に動揺してしまい、怒ってしまう。
そして極めつけに登場した「モトスウラノ」の母親。マインの感情は大きく揺れ、一言では説明出来ない衝撃に襲われる。堪えきれず同調を切った私は目覚めた。
意図せず溢れる涙。マインの偽り無いと理解させられた感謝と甘えと優しさに包み込まれた時、私は痛いくらいの愛しさの、新たな目覚めを知った。
作品名:神殿長ジルヴェスター(14) 作家名:rakq72747