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逆行物語 第二部~ランプレヒト~

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ヴィルフリート様の変化



 「ランプレヒト、これで良いだろうか。」
 ローゼマイン様を心配されたヴィルフリート様が手紙を書いたと言う。可笑しな処は無いか、とお聞きになってくる。
 ……可笑しな処だらけです!! いつの間にこの様な、ご立派な文章を書ける様になったのですか!? 基本文字も書けなかったのに!!
 …ヴィルフリート様の変化は文字だけでは無かった。計算もフェシュピールもその他も、何もかも以前とは違い過ぎる。
「まるで別人ではないか。」
 思わず口に吐いたが、咎める声は無く、代わりに周囲は大いに頷いていた。

 そして生活にも変化が生じた。夕食時、神殿に行ってみたいと言い出したのだ。ローゼマインが何をしているのか、興味を持っていたのは知っていたが、まさかそんな事を言い出すとは思わなかった。
 アウブは当初、良い返事を渋ったが、ヴィルフリート様がローゼマインに話を合わせて、本の話に付き合っていた為、本好きのお兄様と言う間違った認識をしてしまって、アウブを言い包めてしまったのだ。

 木版が積み重なっていく。護衛として来た筈が、私はまるで文官の真似をしている。ヴィルフリート様が文句を言わず、手伝っているのに、従者の私が何か言う訳には行かない。
「叔父上、質問です。」
 ヴィルフリート様が態々席を立ち、フェルディナンド様に近付いて行く。…正直な話、この様にフェルディナンド様とお話するヴィルフリート様に意外性を感じている。
 未だにヴェローニカ様の事を教えられていない為、ヴィルフリート様はフェルディナンド様に良い印象を持っていない筈だ。だが今のヴィルフリート様にはその様な負の感情を一切感じないのだ。
「其方は…、私の印象とは随分違うな。」
「そうなのですか? そもそも叔父上の知る私とは? 叔父上とは初対面の挨拶しかしていないと思います。」
「ふむ、確かに。噂で勝手に印象を決め込んでいただけか。」
 …ヴィルフリート様を良く知る者達にとっては最早、別人です。とは言えず、私は口を噤む。急激な変化は不気味だが、正直、好ましい変化でもあり、戻られても困るのだ。

 毎日は神殿に行く訳でも無いし、それほど多くの時間を取れる訳では無いが、ヴィルフリート様は良く祈る様になっている。ローゼマインの影響だろうか。
 そのローゼマインには作曲の才能があるらしい。それを知ったヴィルフリート様はお披露目用の曲を作って欲しいと依頼された。カッコイイ曲を弾いて、周囲をびっくりさせたいと言う。久々に出てきたヴィルフリート様らしい部分に私はホッとしていた。

 …………。

 何だ、この曲調は……。今まで聞いた事の無い種類だ。しかも歌詞を既に作っていると言う……。不思議な歌詞だ。しかしこの年で恋歌を作るのか。
 楽士が歌詞を変えた方が良い部分を指摘し、推敲される。
 そうして完成した曲は……、シュミルの夢、と題された。物凄い難易度だ、本当に弾けるだろうか。私はやる気を見せているヴィルフリート様に、疑問を挟む事は無かった。…しかしアゲハチョウとは何だろう。