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逆行物語 第二部~ディートリンデ~

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妄言



 はあ、私は何て不幸なのかしら。私はつい先程聞かされた婚約の話に想いを馳せます。神殿入りしている、年が離れた私生児の男性を婿に迎えろ、と言われたのです。条件に合うのは彼しかいないと。
 分かっています。私はアウブになるのですから、迎える婿は優秀でなければなりません。父上の御体がお悪い事も。ですが、あんまりではありませんか!
 …私はヴィルフリートが良かったです。年も近く、顔も悪くなく、お婆様から3代受け継いだこの美貌を、心から嬉しそうに見詰めて下さったのです。なのにヴィルフリートの婚約者はローゼマイン…。卑しい神殿育ちの虚弱な娘。お優しい気質なのでしょう、ヴィルフリート様は文句1つ告げず、ローゼマインに丁重に接しておりました。
 私が聞いたお話では、神の意思を取りに行く際、ヴィルフリートはローゼマインを抱えて、移動したそうです。破廉恥極まりない行為ですが、虚弱なローゼマインを長歩きさせない為だそうです。
 ローゼマインを優先して、神の意思を取らせた後、自分の神の意思を取り、その場で魔力染めを行ったそうです。長く時間が掛かる者もおりますが、領主候補生ですし、予め回復薬を用意していたのでしょう。無事に染め終わった処で、また帰り道ではヴィルフリートに抱えさせたそうです。
 本当にお優しい事。卑しい娘にさえそれですもの。きっと私であれば、もっと大切にして下さるでしょうに……。

 本当に何故、私の婚約者は………、あら、お美しい顔立ち。それに何て素敵な笑顔…、私を心から愛していると主張するかの様な、いえ、様な、ではなく、愛しているのですね。分かりますわ、この魔石を見れば…。悪くありませんわね。
 まあ! もうアーレンスバッハに? 執務の為、だなんて建前を作ってまで、私の側に居たいのですか? もう、私は何て罪な女…。でも言っておきますわ、私、軽い女では無いのですよ? 貴族として、当然の慎みある女性ですのよ? 

 …あら、何ですって? 私が幸せになれるか分からないですって? エーレンフェスト本に真実が? 私、エーレンフェストの本に興味は…、星を結んでからでは遅い? 今の内に確認しておくべき??
 そこまで心配されては無下に出来ませんわね…。

 “ユーゲライゼが袖を振る”

 …題名からすると失恋物語でしょうか。作家は…、ローゼマイン!? ローゼマインが私の幸せに文句を付けているのでしょうか。とにかく中身を読まなければ、的確に言い返す事が出来ませんわ。
 
 そうして私は本を開いたのです――。