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逆行物語 第二部~アナスタージウス~

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取り引き



 「ならば、今の騒ぎは其方の望み通りと言う事だな。…それで、実際の処、どうなのだ? フェルディナンドとアウブ・エーレンフェストは…、その…。」
 ヴィルフリートは口許に笑みを浮かべる。
「物語“ユーゲライゼが袖を振る”は、事実を元にした創作です。それ以上の細かい詮索は、父上と叔父上の絆を土足で踏みにじるとお考え下さい。」
「…書いた其方はどうなのだ…。」
 思わず胡乱な目をしてしまう。
「報いを受ける覚悟あっての事です。」
 言外に私の覚悟を問われた気がした。……男同士の事等、気分的には聞きたくも無いので、覚悟なぞ、したくもない。それに関しては私は引く事にした。一番の問題を上げる事にした。
「中央の疑いが深まっている。エーレンフェストに反逆の意思があるとな。」
 しかし、ヴィルフリートは動じる処か、鼻で嗤って見せた。
「アナスタージウス王子、取り引きしませんか?」
 私は眉を寄せた。
「取り引き、だと?」
「グルトリスハイトの行方。」
 私は驚愕を隠せなかった。そして同時に理解した。ヴィルフリートはこの話をする為に、王族を誘き寄せる状況を作り出したのだと。
「持っているのか。」
 私は盗聴防止の結界があるに関わらず、声を潜める。
「所持しているのは原始のグルトリスハイトです。先の政争で失われたグルトリスハイトならば、言葉通り行方を存じているだけでございます。」
「どう言う意味だ。」
「現在、グルトリスハイトは3種類ございます。1つ目は原始のグルトリスハイト、正式名称はメスティオノーラの書と言いますね。2つ目は遥か昔、メスティオノーラの書を元に、王族が作った魔術具としてのグルトリスハイト、そして3つ目、2つ目のグルトリスハイトを元に、扱い易く改悪したグルトリスハイト、此方が政争で失われたモノになりますね。」
 与えられる情報に混乱する。
「ま、待て――、3つのグルトリスハイト、だと? 改悪? いや、とにかく所持しているのだな。ならば見せて欲しい。」
「ええ、只、メスティオノーラの書は、シュタープでエアヴェルミーン様より頂くモノで、一代限りでございますので、それを先にお伝えしておきますね。」
 …混乱はしているが、危害を加えるな、と言われたのは理解した。
「分かった。」
「では。………グルトリスハイト。」
 シュタープを構え、呪文を唱える。現れたグルトリスハイトに私は目眩を感じた。
 偽物では無い証拠にと、境界線を変更する魔方陣を見せられれば、疑う事も出来ない。
「どうやって、何時、グルトリスハイトを手にしたのだ。」
「知りたければ、私と取り引きを。」
 私はヴィルフリートを睨み付けた。
「最初に申して置きますが、これは私個人との取り引きです。私がグルトリスハイトを所持していることは、誰1人として知りません。つまり秘密裏の取り引きです。エーレンフェストの領主候補生としてではありません。無関係とは言いませんが。」
 …私はヴィルフリートの要求を聞くことにした。ヴィルフリートの要求は――――、