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逆行物語 第三部~フロレンツィア~

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変動と覚悟(1)



 私が2つ下のジルヴェスターにラッフェルを感じられたのは遠い昔の事。あの頃は…、リーベスクヒルフェの悪戯は怒りのドレッファングーアに解かれ、ユーゲライゼにブルーアンファもエフロレルーメも舞う空を譲るだろうと思いました。…今更になって、その時の予測が当たらなくても良いではありませんか。
 王命によって引き離された私達は、他領の人間となります。しかしそれを嘆く事は出来ません。まるで夫を奪う代償の様に、アーレンスバッハが潰され(裏事情を良くご存知だそうで)、その上で領地間の取引を持ってきたのですから、此方をかなり優遇している条件なのです。
 この先、エーレンフェストと繋がりを強めたいツェントには苦労させられるでしょうね…。
 エーレンフェストは貴族が多くありません。現状に見合っていないのは明らかです。
 ツェントは半ばジルヴェスターを強奪した為、側近の数が見合わない領地移動でも最初の数年は誤魔化せるから、じっくり選んで送って欲しいと言われ、此方から政務に慣れた人間を引き抜こうとはされませんでした。
 フェルディナンド様はなるべくは早くジルヴェスターの新側近を送り出すおつもりですが、正直ジルヴェスターの側近をそのまま送るのは、エーレンフェストから見れば打撃になりますから、慣習に従わなくても良いと言われるのは有り難い話です。
 ジルヴェスターの側近を動かすとなると、その一族、妻や成人前の貴族も移動になる為、一気にエーレンフェスト内の貴族が減少してしまうのです。
「カルステッドは外す。」
 まずフェルディナンド様はそう言われました。そうならざる得ないでしょう。カルステッドが移動すれば、エルヴィーラやコルネリウスも移動になります。
 第一、ローゼマインの実の家族をエーレンフェストを出すのは悪手です。領地内ではライゼガングが黙ってはいないでしょうし、中央からの干渉も大きくなりやすいでしょう。
 …どちらにせよ、今日明日で決められる話ではありません。他にもゲオルギーネ様に名を捧げ、高みに昇った者の一族をどうするべきか、と言う問題もございます。その者達はお義母様の一派だった事もあり、中央への、引いてはツェントへの忠誠として、全て報告した上で罰する事が必要なのでは無いかと考えるのです。
 フェルディナンド様はツェントとお話になった際、エアヴェルミーン様が人間とは考えや価値観が大いにずれている事が説明されたそうです。
 ツェント就任でのお言葉は、それを隠していた処もあったそうです。例えば騎士だから、と言う理由でカルステッドは駄目だと判断されていたり、元・騎士で貴族院時代の研究を勝手に観察して、フェルディナンド様が嫌いだと宣言されたり…、色々おありだそうです。
 フェルディナンド様曰くの、フェルネスティーネ様のお言葉では、人間がシュミルを飼う様に神は人間を飼っている(身も蓋もない)、だそうです。そしてそれがなければ、ユルゲンシュミットは崩壊する、と言う事でした。
 …ジルヴェスター本人、奪われた私、奪ったツェント…、その他の周囲含めて、誰も望まない婚姻ではないでしょうか。致し方ないのは理解していますが…。