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逆行物語 第四部~ハイスヒッツェ~

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フェルディナンド様の幼妻



 フェルディナンド様は我がアウブともお話になり、正式にダンケルフェルガーの貴族にお成りになった。アウブはいたくフェルディナンド様をお気に召しており、その後、少々例も少ないのだが、成人男性足るフェルディナンド様を養子としたのだ。
 ユストクスやエックハルト夫婦は領主候補生のままのフェルディナンド様にお付きとなられる訳だ。
 フェルディナンド様のお家でマイン嬢は洗礼式まで御過ごしになり、洗礼式はアウブ・ダンケルフェルガーとジークリンデ様のお子として迎える事が決定となっておられる。
 尚、お二人の御希望により、ダンケルフェルガーの神殿に出入りされる事を許している。何でもマイン嬢は平民との交流の場としたい、と申されている。また、孤児達の力を借りたいとも。
 マイン嬢は下町に出入りして、余り貴族らしくない行動を取られる。今しか出来ぬ事、とフェルディナンド様はお許しになっている。
 私はマイン嬢の護衛に名乗りでた為、兵士の振りをしている。服装に関しては何時の間にか、ユストクスが手に入れていた。平民の演技も学んだ。何故、ユストクスは下町に詳しいのだ? しかもエーレンフェストではなく、ダンケルフェルガーなのに。まあ、良いか。
 ともかくも、私は目の当たりにする。マイン嬢の類を見ない優秀さと、類を見ない虚弱さを。ジル殿がマイン嬢を背負い、移動する事が多いのも頷ける。下町の道と馬車では却って、体が痛くなると言うのも納得である。

 こうして植物紙、印刷、カルテ、ボードゲーム(?)、聖典絵本、ディッター物語、マットレス、髪飾り、リンシャン、女性騎士用のドレス、ドレスに関する価値観、新料理等、次から次へと新たな流行り、否、最早文化であろう、新たな文化がダンケルフェルガーに生まれ、追随を許さぬ領地となっていくのであった。

 洗礼式にて、マイン嬢がローゼマイン様になられた。その祝福とグルトリスハイトの御披露目に、皆が驚き、目を見張る。そして異例ながら、ツェントをお招きし、ローゼマイン様の存在、フェルディナンド様との婚約を発表し、ツェントにその承認と、ツェントでさえ、横槍を入れられぬ約束を、グルトリスハイトの取得方法と引き換えに得た。尚、ローゼマイン様はアーレンスバッハ、特にゲオルギーネに気を付ける事、護衛騎士のラオブルートを信用せぬ事、口車に乗らぬ事、ランツェナーヴェとの交易を中止する事を提案された。実は既にランツェナーヴェの交易で手に入るモノは、このダンケルフェルガーで栽培可能であるから、とも。ツェントは深く頷き、3年を目処に対策を取ると約束され、その後、神殿の復興に力を入れると宣言された。

 ダンケルフェルガーが発展する中、アウブ・エーレンフェストの訃報が届いた。あの若いアウブが高みに昇ったと驚く領地が多い中、フェルディナンド様から先代と同じ病に犯されていると聞かされていた我々ダンケルフェルガーは、遂に、と言う思いが大きかった。
「おとうさま…。」
 神殿でお祈りをするローゼマイン様がポツリと溢された一言に、私は無性にヴァントールの祝福を叫びたくなった。
<フェルディナンド様の甥>

 ローゼマイン様とハンネローレ様が貴族院に入学後、植物紙と印刷技術、髪飾り・リンシャン・女性騎士用ドレス作成方を契約魔術を交わした上で、売買する提案が成された。相手はエーレンフェスト。お話を纏めたのは白の衣装を着るヴィルフリート様と。何と神殿長らしい。成る程、頷ける。
 エーレンフェストはアーレンスバッハからの干渉には迷惑をしている、と言う話を他の上位領地にも伝え、陰ながらエーレンフェストを守って来たダンケルフェルガーが、庇護すると明確に宣言するのだ。
 青色巫女の衣装を着るローゼマイン様と神殿長の衣装を着るヴィルフリート様。仲が良くなるのは当然、と周りからも見られやすい。兄妹仲良く過ごす良い策であろう。ローゼマイン様がアウブ・エーレンフェストであったジルヴェスター様の御息女である事はダンケルフェルガーの領主一族と側近の中では公然の秘密で、ここからエーレンフェストと良い関係を、と願う。そして…。
「ヴィルフリート様に、ハンネローレ様を娶って頂くのはどうか。」
 そんな意見が流れる中、フェルディナンド様とローゼマイン様は仰せられた。
「ならば婿取りディッターありきで、ダンケルフェルガーに来て貰ってはどうか。」
「そうですわね、嫁入りはエーレンフェストには却って重荷かと。」
 意外なご意見にどう言う事かとアウブが御尋ねになる。
「ヴィルフリートはヴェローニカ様に教育されています。その為、属する派閥がヴェローニカ派閥となります。
 ジルヴェスターはヴェローニカ様とは対立してはいましたが、アウブとして若過ぎた故に、ヴェローニカ様に属する基盤の派閥から抜け出せなかったのです。
 そして中継ぎアウブに立たれているボニファティウス様は反ヴェローニカ派閥です。更にジルヴェスターの第一夫人のフロレンツィア様も反ヴェローニカ派閥であり、ヴィルフリートの妹や弟はフロレンツィア様に育てられています。
 この状況下では、このまま次期アウブになるのは難しいかと思います。幾ら優秀であったとしても。」
「更に申せば、ヴェローニカ様が御病気だとか…。恐らく先代や先々代と同じものかと…。この状況でハンネローレが嫁ぐとなれば、エーレンフェストの派閥問題がより複雑になります。ヴィルフリート様はお断りになるかと。」
 何と…。ヴェローニカはフェルディナンド様を追い詰め、ジル殿を深く傷付けた者、彼女が不幸になるのは構わぬが(よい気味だと思うが)、それがヴィルフリート様の暗雲になるとは…。
「まずはアウブ・エーレンフェストであるボニファティウス様に相談しましょう。恐らく表向きは難色を示すと思われますので、その時にディッターを申し込んで下さい。」
「うおおおおおおっ!!!!! 勝利を我等に!!!!!!!!!」 
 その暗雲を吹き飛ばす勢いで、誓いの叫びを上げた。
「お静かに。」
 ジークリンデ様のヒヤリ、とした声音に我等の吭が止まる。可笑しいぞ、体が震える。

 何にせよ、ヴィルフリート様がハンネローレ様の婿として、ダンケルフェルガーに来られた!!! 目出度い!!!!!!
<フェルディナンド様の…>

 …フェルディナンド様、ローゼマイン様、まるで恋物語の様に、お互いの名を捧げあっておられたのですね。美しい…、ですが悲し過ぎます!!! 余りに早過ぎますでしょう!!!? 
 ローゼマイン様に至ってはまだ…、20才にもなっておられぬと言うのに…。うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「御悔やみディッターだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 宝は生涯、フェルディナンド様から取り戻せなかった、我がマントぞっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 我等の勇姿、高みより奥方様と是非、御覧あれっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

続く