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逆行物語 第五部~フェルディナンド~

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再教育の思惑(2)



 ヴィルフリートの為に整えた神殿長の部屋で、私は城の執務を、ヴィルフリートは勉学になるからと、図書室の本を読んでいた。
 孤児の惨状を知ったヴィルフリートは、彼等を救いたいが為に変わった。
 現実を知る事から始まり、受け入れ、孤児を守り続ける存在である為に、立場に見合った努力をしている。今や古語さえも何とか読める様になったヴィルフリートが、神殿に来た日から1カ月経った頃だ。
 正直、やる気になればここまで出来るのかと、驚いたものだ。今まで教育がされていなかった事に嘆く。
 …フェシュピールもこの年頃の上級貴族の平均は行っているだろう。私が満足してないだけで。
 魔力の扱いについても、教えてやりたい。業務上、邪魔にはならぬだろう。
「ん?」
 不意にヴィルフリートの声がした。見ると図書室の鍵棚にある本に移っていたらしく、私の本では無かった。
「叔父上、これは本ではございません。木箱です。中身は…、手紙?」
 一気に本を移動していた為、灰色は気付かなかったのか、いや、触れば解るだろう。忘れたか面倒だったか。怠慢だな。
「見せなさい。」
 試しに着けていた灰色を地階に戻すと共に、次はフランを使おうと決め、私はヴィルフリートに命じた。
「これは……、」
 ベーゼヴァンスの企み事の証拠ともなる手紙だった。そして…、随分親しくやり取りしている相手からの手紙と、その相手に渡しそびれていたと思われる手紙だった。
「ふむ…、ジルヴェスターに報告だな。」
 私は終えた処の書類を持って、急ぎ城へ向かう事をオルドナンツに告げた。

 私に任される仕事の量は、一時に比べて随分減った。息子に仕事の采配についてバレる可能性に辿り着いた様で、私に任せる場合は城から使いを出してきた。いや、正確に言うならば、こっそり息子の様子を見たかったのと、サボりたさとで、使いの振りをして自ら遣ってきたのだが。
 まあ、そのお陰で使いも嫌がる余裕もなく、やって来ているが。
「ジルヴェスター、ベーゼヴァンスの悪巧み書と、それから恋文みたいな手紙があった。」
 そう言って丸々全て渡すと、その場にいた全員が手を止め、手分けして確認していく。悪事の証拠の裏取りや手紙の相手についての調査は、てっとり早く記憶を覗く事になった為、日を改める事になった。
 そして私は任されていた業務資料を渡すと、口火を切った。
「ヴィルフリートの事だが、神殿業務を滞りなく進める為、魔力の扱いについて教えたい。」
「魔力の扱いだと?」
「そうだ。今まで私が担って来た分が丸ごと抜けるのだ。青色の数も少過ぎる事を思えば、ヴィルフリートの魔力量は生かして使うべきだと思うが。」
「しかし、ヴィルフリート様に凶器をお渡しする事になりませんか?」
 ジルヴェスターの側近の1人が意見する。
「何かあれば私が始末する。始末出来なければ、連座で責任を取る。」
 今のヴィルフリートを知らない者達が驚愕に満ちる。
「断っておくが…、私は勝てない勝負はしない主義だ。」
 斯くして――、密やかに私の計画は進んだ。必ず、ヴィルフリートにシュタープを取らせる。例え神殿に住まう身であったとしても、貴族の条件さえ満たしておけば、何らかの機会に恵まれるかも知れぬ。

 きっと。

 ジルヴェスターが喜ぶ。