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逆行物語 第五部~交差~

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ヴィルフリート視点~変化~



 ポロポロと音が響く。所々毛躓いているが、それでも全く比べモノにならない。しかも後に行く度にドンドン上手くなっていく。私は堪え切れなくなり、その場から逃げ出した。
 …私はお祖母様に育てられた。お祖母様は事ある毎に父上と私が如何に似ているかを話す。勉学中も走り回るくらいに丈夫になって、とか良くお話されていた。
 私が走り回ると嬉しそうにされていたし、じっとしているよりは動いている方が楽しいし、勉学は嫌いだ。常に逃げ回り、それを叱る様な変な人間はいなかった。
 そんなお祖母様だが、時折怖い顔をして、フェルディナンドと言う男の話をする。シセイジと言う害毒で、お情けでエーレンフェストに住まわさせているのだと言っていた。
 私の世界はお祖母様中心で、間違い等知らなかった。

 私が理解しない内にお祖母様はシロノトウ、と言う場所に閉じ込められ、私は神殿に出された。お祖母様がシセイジの害毒と言う相手に従えと言われても理解出来なかった。
 逃げ出した私は、神殿の中をどう走ったのか、気が付けば強烈な異臭が鼻に突き刺さっていた。
「誰?」
「!!」
 ボロボロ。汚い。ガリガリ。鼻を押さえた私の視界に入ってきた姿に、いっそ恐ろしささえ感じた。
 声も出せず、踵を返そうとした私に向かう影に気付き、私は地階の奥へと走ってしまった。後から思えばこの影は、神の恵みを持ってくる誰かだったのだろう。だが当時の私は何か恐ろしいモノが向かって来る気がしていたのだ。
 散々走って、何かを踏み着けた。足裏の弾力に転びそうになる。思わず確かめた。
「―ひっ!!!!」
 赤ん坊だった。ピクリとも動かず、私の足跡が体に残っている。
「あ、あ、あ、」
 僅かに後ずさった私だったが、意を決して屈む。死、と言う存在を知る。そして踏み着けたせいだと思った。無我夢中で赤ん坊を抱えると、また私は走った。この神殿で、知っている大人は唯1人しかいない。

 孤児達の惨状を見て、私は初めて自分の世界の狭さに気付いた。限られた情報の中で飼い慣らされていたのだと。そしてそれでも、孤児達に較べれば幸福であり、幸運であると。
 私は自分が恥ずかしく、情けなく…、変わりたいと思った。変わる事を望み、決めた。彼等を守れる様に。