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逆行物語 第五部~交差~

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ヴィルフリート視点~成長~


 
 勉学や音楽、それに調合を含む魔力の扱いを学び、神殿業務に携わっていく。灰色の神官や巫女や、その見習いをなるべく多く遣えさせ、神の恵みを増やす。
 そうして半年程が経った時、孤児達から意見を聞き、ある事を決めた。
「孤児を外に出すだと?」
「はい。孤児達の食事事情は確かに良くなりました。しかしそれは私がその様に動いたからです。しかし儀式の為、私や青色が神殿を離れる数日間は元の木阿弥です。
 青色の数が戻れば、解決する様にも見えますが、根本的には違います。」
「どう言う意味だ?」
 眉を潜める叔父上に、私は己の考えを続ける。
「例えばですが、叔父上は孤児院を何とかしたいと思いながら、手を加える事が出来ませんでした。…上に立つ者の事情が、彼等全員の生死を握っています。良い時も、悪い時も、変わりなく。
 私は…、良い時を更に良く、悪い時を良い時と同じ様に出来る、彼等自らが動く環境を作ってやりたいのです。」
 米神をトントンと叩く叔父上は、眉間のシワが増えた気がする。
「…それでどうして孤児を外に出す等と…。」
「儀式で農村に行った折り、引き取った孤児達から貰った情報を得ました。成人すれば田畑を貰える者、貴族の下働きになれる者、農地が無い為、やって来る旅商人に依頼し、引き取ってくれる町の商人の処で働く者…。各々苦労はあるでしょうが、彼等は自分達で生きる道を切り開きます。
 ですが、神殿の孤児達は成人しても、自分達の力で生きていく事が出来ません。良心的な孤児院と悪心的な孤児院の違いはあれど、神殿外の孤児達は浅ましく、生き汚く、けれど美しい程、逞しい。しかし神殿の孤児達は、悪く言えば他人任せの生き方で、弱々しい。決して高潔でもありません。
 星を結ぶ事だって出来る彼等の自由を、神殿の孤児達にも与えたいのです。」
「…神殿の孤児達は外に出せない。そう言う決まりだ。神官や巫女は婚姻出来ないのと同じだ。
 それに農地を貰えるのはハッセの孤児、貴族の下働きは貴族次第、商人になるのは小さな農村、孤児達が選んでいる訳ではない。」
「だからこそ、各々の生き方に新鮮さを感じています。私が城の、ごく限られた世界で何も知らなかった様に、彼等も知りません。己以外の生き方を知らなかったのです。
 けれど今、外の価値観が入り、自分達の生活が努力次第で変わる可能性があると分かりました。
 動こうとしないのは、叔父上の嫌いな努力しない無能者だと思います。」
「…………。」
「外に出せない理由は、俗世に関わらない為と言いますが、望んで神殿入りする貴族は居ないし、神殿にいたいと思う者も居ない。叔父上だって、還俗が望ましい筈です。それならば、ここには神に遣えたい等と高潔に考える人間はいません。孤児達だって、望んで神殿に来た訳でもありません。ならばここは俗世そのもの、外出を禁止する意味等ありません。意味の無い規則ならば変えれば良いのです。
 既に青色に遣えている灰色に外に出す命令をしなければ、大した問題にはならない筈です。」
「俗世に関わらせない、と言うのは建前だ。」
「元より孤児を外に出さないと言う規則は不文律ですよね。ユストクスに学びました。」
 ハッセで学んだのだ。都合が悪い不文律は無いものだと。
「……具体的な事は考えているのか。」
「まだ何も。唯、神殿の外、下町について調査を、と考えています。洗礼前の子供を含めた平民の暮らしについて。」
「…ユストクスを貸す。何かあれば、全て報告しなさい。」
「ありがとうございます。」
 斯くして私は孤児の自立に向けて、走り出した。