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逆行物語 第五部~交差~

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ユストクス視点~ヴィルフリートの教育~



 名を捧げた主であるフェルディナンド様の命で、神殿の儀式の為、各地を共に参りました。
 その際、ヴィルフリート様もご一緒だったのですが、その余りの変わりように私は驚きを禁じ得ませんでした。
 フェルディナンド様曰く、ヴィルフリート様は鏡だそうです。周囲の環境をそのまま映し取り、如何様にも変わる為、今までの周囲が如何に無能であったか、また、ヴィルフリート様に無能であって欲しいと願っていたかが分かる、との事でした。
 そう思えばヴィルフリート様は、ヴェローニカ様の、主とは別方向の犠牲者なのでしょう。
 …取り敢えず、どうやらフェルディナンド様はヴィルフリート様を教育する楽しさに目覚めた様なので、私の中でヴィルフリート様の重要度が増しました。

 ハッセでの儀式の際、孤児が居る事を知ったヴィルフリート様は詳しい話を聞きたいと仰せになりました。予定には無かった為、かなりの性急な事になりましたが、フェルディナンド様が許可を出したので、ハッセの孤児達と体面する事になりました。
 …ハッセの孤児の扱いは余り良いものではありません。しかし、神殿の孤児達の状態は類を見ない酷さだったらしく、ヴィルフリート様は僅かに眉を潜めましたが、その不愉快さや怒りを言葉に出す事を憚った様です。
 神殿の孤児院の改革に協力をして欲しいと願い、頷いた者を連れていく事になりました。その時です。
「姉ちゃんを返せ!!」
 大人を振り切ったらしい少年が突っ掛かって来ました。聞けばたった1人の身内を貴族に買われたとの事。
 神殿の花業務すら理解していない純粋培養は意味に気付かないまま、頓珍漢な事を言っています。
 フェルディナンド様の様子を伺うと面白そうに口の端を上げております。もう少し大きく動けば、誰もが気付くでしょうが、他人に感情を悟らせる方ではありません。
 …頓珍漢ですが、それはヴィルフリート様が意味を解していないと解るからで、そうでなければ痛烈な皮肉攻撃になっていますね。
 面白いのですが先行きを考えれば、もっと広い方面で知識を付け、人の裏を読める方が良いですね。
 この件が解決し、孤児の生き方を学ぶ辺りで、フェルディナンド様がそれを教える事にした様で、私はそれを手伝う事になるのです。
 その為、私はヴィルフリート様が良くも悪くも他者の心が望んだ事を、無意識に映し取るのだと気付きました。
 ヴィルフリート様はアウブの単純さとフロレンツィア様の素直さを強く受け継いでいるのでしょう。洗脳され易いのです。
 ヴェローニカに望まれ、周囲が従った無能を映し取り、話に聞かされたアウブの幼少期と、ヴェローニカのフェルディナンド様嫌いを混ぜた人格となっていたのです。
 そして今は…、フェルディナンド様が望む様に、ジルヴェスター様の甘さと、いざと言う時に決断出来る自我を受け継ぎ、フェルディナンド様の能力を併せ持ちつつあります。神殿でしか生きられないのは勿体無い。せめてシュタープを取れれば……。私のその想いこそ、フェルディナンド様の1つの目的だと知るのは、少し後でございました。