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逆行物語 裏五部~愛と死のロンド~

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ジェルヴァージオ視点~クインタの選択~



 正直な話、片恋だろうとそうでなかろうと、ジルヴェスターが想いに気付いていようがいまいが、フェルディナンドのエーレンフェストに尽くすと言う判断がまともとは思えぬ。だから私は少し深く聞いてみる。
「因みに聞くが、ジルヴェスター・エーレンフェスト以外の男では「気持ち悪いので止めて下さい。」…即答か。」
 と言う事はジルヴェスターが特別なのか。
「ならばやはりそれは懸想だろう。だが、ラッフェルは実るのか?」
 現実は良い様に使われているだけだ。側に居続けても良い事はない。
「…………っ、」
 懸想、と自覚した事で今の自分の在り方に気付けるか? それとも深みに嵌まるか? 
「ツェントは…、身内として傍に寄せた者が、貴方の妻に懸想していれば、遠ざけたいと正反対の思考に変わりますか?」
「変わるだろうな。万が一が起こる事を恐れて。」
 やはり遠ざけられる事を恐れている様だな…。対処を間違えれば深みだな。
「だが私自身に、と言う事なら恐れはせぬ。寧ろ利用する対象だ。身内だからこそ、遠慮もせずに無理難題を押し付けるだろう。」
 そう言ってやれば、クインタは自嘲するかの様に話す。
「ジルヴェスターと貴方は違います。ジルヴェスターは第一夫人一筋の、一途な人間ですから…、自分に懸想している相手を利用する事はしません。」
 果たしてどうだか。
「ならば私に答えさせる必要はなかろう。と言うより、ジルヴェスター・エーレンフェストの意思は置いといて、其方はどうしたいのだ?」

 「愛されたいに決まっておろうっ!?」

 絞り出す様な声だった。
「だが願うだけ無駄ではないかっ!! ジルヴェスターは私をその様に見ないっ!!」
 血を吐く様な声だった。
「…何故気付かせた? 傍にあれば良かった筈なのにっ、愛されたい等思わなかったのにっ!!!! 
 貴方は私に何をしろと!!?」
 叫ばれる本音を全て聞こうと、口を挟まなかった。

 「奪えとでも言うのかっ!!!!!!」

 その瞬間、私はクインタの、ジルヴェスターに対する判断力が、間違えていない事に気付いた。故に、
「眷属を追い払い!!、雪でゲドゥルリーヒを閉じ込めるエーヴィリーベそのものになれと言うのかっ!!!!!!」
 故に、

 「そうだ、奪えばよいではないか。」

 虚を突かれたクインタに、私は畳み掛ける。
「奪えば良い。自分の為に。私はそうした。奪われてきた者達に呼び掛け、共に尽力し、このユルゲンシュミットのツェントになった。
 私に奪われた者は利用する事はあっても、幸福にしてやろうとは思わぬ。償い等、綺麗事が言える世界で生きては来なかった。私も、其方も。」
 だから、
「黙っていては搾取される世界だったろう。ならば己の幸福は奪って手に入れるしかないではないか。」
 まだだ、迷いがある。
「アダルジーザの離宮を忘れたか。私は忘れぬ。同じ腹から産まれた違う種を、踏みつけにして生きる道を得た事を。其方も忘れてはいないだろう。
 我等は、奪わなければ生きてさえいけなかったのだ。
 其方は今、奪わなくとも幸せか。違うだろう。」
 奪われる側から奪う側へ。そこから外れる事が叶うなら、私はクインタを焚き付けなかった。
 だが奪われて、奪われ過ぎて、それが当然だと洗脳される無情な現実よりは、奪って洗脳する側に回ってしまう方が、ずっと健全な現実だ。

 ――我々にとっては。

 「………………手を、貸してくれるとでも?」
 期待と不安が渦巻く視線。
「其方が本気ならば。」
 こうして私とクインタは、叔父と甥の関係になる事を認め合った。

 ジルヴェスター・エーレンフェストの幸せに興味は無い。どうでも良い。優先すべきはクインタ。

 奪えば良い。洗脳すれば良い。被害者か加害者ならば、加害者になれ。

 ジルヴェスター・エーレンフェストは其方を愛する様に、その思考を、可笑しくしてしまえば良いのだ。