逆行物語 裏四部~ヴェローニカ~
カーオサイファの巣
私が物心着いた時には、第一夫人でありながら、お母様は随分と肩身の狭い想いをしておりました。
大領地アーレンスバッハより無理矢理輿入れして来たと言われますが、それはエーレンフェストの勝手なる言い分で御座います。
お母様はまずアウブ同士で婚姻が可能かどうか、伺いを立てて貰ったのです。それを社交下手なエーレンフェストが交わせなかった為、アーレンスバッハの命令と受け取られたのでございます。
地位が高ければ高い程、責任は大きくなります。故にどちらが悪いかと言えば、アーレンスバッハに非があるとなるのでしょう。
しかしだからと言って、エーレンフェストに反省点が無い訳ではございません。なのに被害者意識の塊で、お母様はエーレンフェストに中々馴染めなかったモノです。先に嫁いだ第二夫人がお母様を邪険に扱うばかりでございます。
これで冬の営みが無ければ、完全にエーレンフェスト有責に出来ましたが、お父様はこんな処だけ立派に、エーレンフェストを守る為にと、冬は欠かしませんでした。
最初に兄が産まれた事で、お母様はホッとしていたでしょう。次に私が産まれ、そして……、第三子を宿しました。
本来、後継ぎは兄で御座います。しかし常識も良識もないエーレンフェストは愚かにも第二夫人の子が後継ぎであると決めていたのでございます。
兄は暗殺されたのでございます。
調べれば確実に第二夫人に結び付いた筈です。明らかに御粗末でしたから。しかし、お父様が黙認していては勝ち目はございません。証拠等、握り潰されてしまいました。
お母様はそこまで愚かかと、怒りと情けなさ、何より我が子を失った哀しみで、予定より早く弟が産まれたのでございます。
弟だけ魔力が低かったのは、その為でございました。下働きか神殿か。当時は下働きであれば、家族が引き離されないで済むと思いましたし、経済的にもその方が良い筈でした。
無理矢理に輿入れして置きながら、婚家に馴染もうとしない、自尊心と悋気だけが強い名ばかりの第一夫人の子等置いては、何時我が子やこの先産まれる孫に危害が加えられるか解らぬと、神殿入りが決定されました。
私も母も怒りが抑えられませんでした。何の取り柄も無い、中領地等名ばかりの下位、エーレンフェストに嫁いで挙げたのに、何の礼儀も知らない田舎者貴族だと、お母様は初めてアーレンスバッハの身内にエーレンフェストの非を連ねました。
そしてアーレンスバッハから取り寄せた大領地ならではの物で、流行りを作り、派閥を作りました。
上級より立派で、魔力量の多い下・中級を演出する事で、エーレンフェストは物の道理が解らぬ貴族と他領より嘲笑され、アーレンスバッハの味方である大領地より非難され、中央に居るエーレンフェストの貴族から、不満を言われ、次第にライゼガングは力を失って行きました。と言っても、まだまだ影響力はございましたけど。
私は成長し、お母様の派閥を引き継ぎ、もっと大きくしていくか、それともアーレンスバッハへ嫁いで行くか、考える時が来ました。正直、大領地に嫁いで、エーレンフェストの名が恥ずかしいと嘆き、もっとエーレンフェストを外から追い詰めても良かったのですが、弟と離れる事が嫌でございました。
しかし私はエーレンフェストの貴族を信用出来ません。どうしたモノか迷っていると、次期アウブより内々に求婚されたのでございます。
アーレンスバッハからの責め立てにそうするしか無かったのでしょう。私を娶る事で、領地内の安定を図ろうと考えているのでしょう。
それは詰まり、私達への仕打ちに対し、非があると認めた事になります。しかし、だからと言って、私が今までの仕打ちを水に流せるかと言えば、お話は別でございます。求婚を受ければ領主第一夫人。私怨に駈られて動く訳には行かない身分でございます。
作品名:逆行物語 裏四部~ヴェローニカ~ 作家名:rakq72747