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逆行物語 裏四部~ヴェローニカ~

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カーオサイファの卵



 私は窮屈になります。果たして受け取る価値がある謝罪なのでしょうか。非を認めると言っても、兄を暗殺した事件を洗う事は出来ないでしょう。正直、体裁だけを整えようとしていると思いました。だから私は申したのでございます。
「私は殿方の気の多さが信用出来ません。神話の様に一夫一妻では執務を回せない事は解りますが、不必要な妻達は却って邪魔にしかなりませぬのに、それを解らぬ殿方が余計な争いを招くのでございます。父だけでなく、異母兄弟を信用する事も出来なくなります。
 一貴族の家での事ならばともかく、領主一族であれば、下々にまで類を及ぼしますわ。
 幸いエーレンフェストの現状は、妻1人で充分でございましょう。私を娶るならば、私以外を傍に置かぬと約束して下さいませ。」
 と。
 領主とあれば、第三夫人まで処か愛妾だっていても可笑しくございません。必要な事情があればともかく、欲望に添われては溜まりません。
 私を第一夫人に成すのならば、私を大切にして頂けなければなりません。私の要求は通りました。
 建前は派閥の関係上、と言う事で、私は確かに唯一の妻となりました。
 私はこの時点では知りませんでした。私を妻に推したのは、現・アウブとその第一夫人であり、夫では無かった事。
 建前は親の受け売り、本音は私の悋気と受け取っていた事。
 夫自身は只、魔力量のみが目当ての婚姻で、愛妾の様にしか、見ていなかった事。

 ……まだまだ世間知らずでございましたね…。

 私は領主の第一夫人として、精一杯の努力を致しました。決して私怨に走らず、出来る限りの公平さを保ちました。
 勿論、派閥の者には利を与えねばなりません。ライゼガングを一強にしない為には確かに必要な事でもありました。
 エーレンフェストではライゼガングこそ、貴族であると考えておりました。ライゼガングに連ならぬ者は偽物の貴族、平民の身食いと変わらぬと口にする程でございました。
 愚かにもその態度を貴族院でも貫くので、常にエーレンフェストは失笑の対象でございました。
 これではエーレンフェストに未来はございません。未来の為には、ライゼガング以外の派閥が力を持つ必要があります。
 以前より私の派閥が力を付けましたし、ライゼガングの中でもまともな貴族が害毒を押し除ける様に、力を貸さねばなりません。それに今まで目立たなかった小さな派閥達も、少しずつ影響力を持つ様になってきました。
 …この複数の派閥が争い、足を引っ張り合わぬ様にせねば…。
 そう頭を働かせる私に向かって聞こえるのは女腹、と言う陰口でございます。
 当時は娘2人しか子はおりませんでした。アウブを目指し、努力する上の娘を次期アウブとしていましたが、幾ら能力があっても、女性と言う一点で不利が否めません。余程飛び抜けていない限り、ゲオルギーネは足を引っ張られ続けるでしょう。
 だからこそ、ジルヴェスターが産まれた時、この子こそ後継ぎと皆が挙って主張したのでございます。
 真摯な努力を続けるゲオルギーネは、アウブに相応しいと思っていたからこそ、私はゲオルギーネならばジルヴェスターの補佐になれると信じておりました。
 ゲオルギーネは領内の状態、大小様々な問題を理解しておりましたから、ジルヴェスターこそ、アウブにせねばならないと解っていると。
 …蓋を開けて見れば、あの子は只々権力に魅入られていただけでございました。
 幼いジルヴェスターに向けられた醜悪な悪意…。冬の意味も知らぬ子に強いたゲドゥルリーヒの役割…、それも複数相手に。
 事件は内密に処理しました。そしてゲオルギーネはアーレンスバッハへ嫁いでいったのです。