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逆行物語 裏四部~ジルの背景~

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ハルトムート視点~忠心~



 “フェルディナンド様がアウブ・エーレンフェストに懸想して、領地外へ誘拐した”

 はあ? 

 この説を聞いた私の頭は直ぐに馬鹿馬鹿しいと言った。全くヴェローニカ様の戯言をフロレンツィア様が信用される等…、庇護する夫を失った事で、頭が可笑しくなったのか? 
 恐らくそれは私1人では無かった筈だ。しかしそれでもエーレンフェスト全体が従っていたのは、敵対関係にあった筈の2人が手を組んでいたからだろう。
 夫の不在で仲が良くなると言うのも皮肉なモノだ…。
 一応、上級貴族として情報を集めている為、フェルディナンド様の逃亡先はダンケルフェルガーである事は解っている。
 エーレンフェスト全体に知らされる前に掴んでいた情報だったが、正直、こんな田舎領地の事より、ダンケルフェルガーの聖女に興味がある。
 当初は大人達の宣伝、と思ったがディッター前の祝福を見て、私の忠誠心は一気に形を変えた。
 私の主はローゼマイン様だ。名捧げを強請する領主一族では無い。どうにかしてローゼマイン様の側近になれないか…。
 ローゼマイン様の側近に婿入りするのはどうだ? 幸い、エーレンフェストはダンケルフェルガーに入り込む事を考えている。ローゼマイン様にどれだけの忠誠心を持っているか語り、解って貰えれば……。

 くっ、無理なのか! 

 ローゼマイン様の側近の中、尤も気が合ったのはクラリッサと言う武よりの文官だ。ローゼマイン様を賛美する私の気持ちを一番理解している。共に賛美するのは実に楽しかろう。
 クラリッサもそう思っている様だと判断したし、間違っていなかったのだが、ローゼマイン様の側近故に主の許可が必要で、却下されたそうだ。私はがっくりと膝を折った。
 となれば残る方法は1つ…。この手は使いたくなかったが…。

 ヴィルフリート様の側近になる。

 ローゼマイン様は驚いた事に青色巫女見習いだ。孤児院長でもあるらしい。平民相手に慈愛を振り撒き、貴族には身分故の厳しさを求める。その努力を見て、下級にも関わらず側近に取り立てられる者もいるらしい。
 そんなローゼマイン様はヴィルフリート様と接触を持っている。ヴィルフリート様が神殿長だからだ。
 エーレンフェストの神殿では、フェルディナンド様が抜けた穴を埋める為、領主一族を筆頭に、様々な貴族が出入りしている。
 案を出したのはヴィルフリート様で(その様に言われている)、洗礼式を迎えた後は、神殿長に任じられた。
 ここ数年で、順位には直接関連はしないが、エーレンフェストにとって都合の良い事が起こっている。
 ダンケルフェルガーに入り込む、と考えている際に、聖女から興味を持たれるのも、その1つだ。
 正直、下らない派閥争いだと思っていたが、ヴィルフリート様に支えるのは、ヴェローニカ様に下ると同じ、気に入らない。しかしローゼマイン様に支える道を探す為なら、私は試練と思い、打ち勝とう。グリュックリテートよ、私に加護を!!