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逆行物語 裏四部~ジルの背景~

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ジルヴェスター視点~ジルの日常~



 今にして思えば、それらは封じられた記憶の主張だった。

 だが、当時の私は平民の言葉遣いが咄嗟に出てくる程、記憶の隠蔽以外の強力な暗示を掛けられ、姿でさえ幼く変えられており、私本人も違和感を不審に思いながらも、深く考える事はしなかった。

 マインは良く私に負われて、移動した。お兄様、お願いと言われ、甘えられ、妹なんだと少しずつ思える様になっていた。
 マインは記憶を失った私が心配だと側にいたが、果たして本心は何だったのだろう。
 夜はフェルディナンド、マイン、私の3人でかなり大きいベッドで休んでいた。正直、かなり遠慮したかった。が、お兄様、兄上、とほぼ無理矢理だった。
 フェルディナンドに兄上と呼ばれるのは擽ったかったが、今となっては何とも言えない気分だ。
 違和感を覚えながらも、マインからもたらされた知識が真実そのものではないと思ったのは、ローゼマインはアウブ・エーレンフェストの娘、と言われていると知った時だ。
 違う、そんな事実はないと強く思ったから、特に確かめはしなかったが、私が聞かされている事が全てではないと思った。
 ローゼマインとして生きる(私にはマインと呼べと言っていたので、ずっとマイン呼びだったが)妹には隠す事や偽る事が必要で、平民の私には話せない事だってあると考えていたからでもある。
 フェルディナンドとマインが星を結び、流石に3人就寝は無いだろうと思ったのに、何故か変わらなかった。虚弱なマインに合わせ、完全に大人の体に出来上がるまでは冬はお預けだから、と理由にならない理由で押し切られた。
 フェルディナンドは一貫して私を兄上と呼び続け、違和感を覚えながらも敬語を使う私に、普通に話せと言ってきた。そんな事は許される訳が無いのに、私はソコに違和感が消えた事に、首を捻っていた。

 不審は常にあった。それでもマインは可愛かった。フェルディナンドも可愛かった(年上と思っていた相手への感想ではないが)。
 2人が高みに昇り、悲しかった。そして同時に先を気にする様になった。平民は洗礼後には働くのだが、私はマインの手伝いや世話しかしなかった。ちゃんと働いた方が良い筈と分かっていたが、2人に禁止された。過保護、と言うよりは監視だろうと今なら分かる。

 ヴィルフリートに暗示も隠蔽も変身も解かれた今ならば、全て分かるのだ。

 ヴィルフリートは隠し部屋にて、最初にこの場所で見聞きした情報は決して誰にも話さぬ様にと言った。私に、ではなく側近2人に。ビクリと体が動いて、何か強制されている様だった。名捧げ、と頭に浮かぶ。
 そうしてシュタープを出し、魔紙に魔方陣を書き、私に持つ様に指示を出し、魔力を叩き込まれた。
<章=ジルヴェスター視点~ジルの眠り~]

 「は…、え…?」
 髪をぐしゃりと潰す様に、頭を押さえる。ヴィルフリートの言葉の理解が、一瞬遅れる。呆然となって、その後で混乱が徐々に沸き上がる。
「一体、どう言う事なのだ!?」
「父上、貴方は誘拐されたのです、叔父上に。」
 ヴィルフリートの言葉に私は弾かれた様に、顔を向ける。
「叔父上は、父上に懸想しておられました。」
「はあっ!!?」
 何を言うのだ!!?
「マインにも、懸想しておられました。」
「待てっ!!」
「マナー違反でしょうが、男性にとって、複数のブルーアンファに恵まれる事(3人の妻に愛妾複数持つ事)事態は珍しくありません。」
「いや、だから待てっ!!」
「只、それを叶えるには難しかった。エーレンフェストに居ては不可能だった。」
「いや、だからっ、」
「でも叔父上は諦め切れなかった。幸せになる事を望んだのです。」
 それを聞いた瞬間、声が詰まる。フェルディナンドが、自分の望みを殺して生きてきたのを知っている。感情を圧し殺し、辛い時や怒りに満ちている時程、綺羅びやかな笑顔になる。
 私の脳裏には恐ろしい笑顔のフェルディナンドと、欺かれていたここ数年の、フェルディナンドの柔らかな笑顔が浮かぶ。
 エーレンフェストでの生活が幸せな筈が無い。ここダンケルフェルガーで、フェルディナンドは幸せを感じていたのかも知れない。
「叔父上の嘘が誤解を生み、マインはローゼマインとして生きる事が可能になった。父上の隠し子と思われたから。
 そして父上をジルとして、囲い込む事に成功した。それが真実の一端です。」
 最期の言葉に何かが冷えていく。まさか…、そんなバカな…。
「…ヴィルフリート、其方は…、誰の味方だ…?」
「私は常にエーレンフェストの事を考えていますよ。
 父上、貴方が居なくなったエーレンフェストでは、お祖母様と母上が手を組み、自然と派閥争いが無くなって行きました。
 ダンケルフェルガーと取引を開始したエーレンフェストの発展は、穏やかに、緩やかに、丁度良い速度で進んでいます。
 世代交代を考え、お祖母様が倒れられたのを期に、私はメルヒオールを次期アウブに推しました。
 私はダンケルフェルガーに婿入りし、ダンケルフェルガーの情報をエーレンフェストに与えています。それが現状です。」
「私は邪魔だったと言うのか…?」
「私が考える、未来のエーレンフェストには必要ありませんでした。
 なので父上、貴方は高みに昇っている事になっています。エーレンフェストの上層部にはこう言っています。『叔父上が父上を誘拐している以上、エーレンフェストから既に出て行っていると思うべきだが、どの領地に居るかは不明だが、貴族院時代の話から考えれば、大領地が叔父上に手を貸している筈。しかも証拠と呼べるモノは何もなく、そもそもが他領に協力要請は出来ない。
 ならばエーレンフェストは父上を諦めたと思わせ、情報を集め、当てが付けられた領地に入り込み、内部から取り戻す方法を考えるべき』、と。」
「つまり、其方はフェルディナンドを利用したのか。」
 声が震える。
「言い訳はしません。ですが、叔父上もエーレンフェストから追っ手が掛からぬ様にする為に、エーレンフェストに味方が必要ですから。お互い様、ですよ。」
 拳を握る。当時のヴィルフリートはまだ洗礼前。何故、その様な思考を持っていた? 勉強から逃げ出してばかりで、私に似ていると思っていた姿が偽物だったのか? 只、悲しい。
「叔父上とローゼマインが高みに昇った以上、貴方がダンケルフェルガーに居る理由はありません。
 お祖母様はもういませんが…、母上達が待っています。私の事を知らぬまま。貴方が生きている事だけを知った状態で。エーレンフェストに帰りませんか?」
 私に他の選択肢は無い。それを見越した誘い。こうして、私はヴィルフリートが用意した台本に従う事になった。姿を再び変えられ、口をつぐんだまま。
 …今更、真実が露になった処で、誰もが判断に困るだろう。私はヴィルフリートの語った事を高みに一緒に持っていくのだ。

 3人で眠った寝台。フェルディナンド、ローゼマインが成人女性の体になれば、冬を迎えると言っていたな。もしかしてその時は、私とも迎える気だったのか? 

 …怖くて聞けぬ。

続く