逆行物語 裏一部~ローゼマイン~
悲しみがそして始まる
急に体から力が抜けたんだ。フェルディナンドが私を支えてくれたのは解ったけど、目が開けられない、体も動かせない。私を呼ぶ彼の声が聞こえなくなって、意識を失うまで一瞬だったと思う。不安を感じる暇も無かった。
「ローゼマイン!! ローゼマインっ!!! ローゼマインっ!!!!」
私の名前を呼び続けるフェルディナンドの背中を、私は見ていた。
【フェルディナンド?】
私は良く分からなくて、近付いた瞬間、フェルディナンドが見ている先に、私の脱け殻があるのに気付く。
【―――っ!!?】
同時にフェルディナンドの魔力が暴走していく。
【ダメ!! フェルディナンドっ!!!!!!!!!!】
死んじゃうっ!! 皆死んじゃうっ!! フェルディナンドが死んじゃうっ!!
私は自分が死んだ事は理解した。貴族院を卒業した時に、どうしても私に名前を持っていて欲しいと願った人以外には返した。
フェルディナンドのもだ。だって、レティーツィアの親になるんだから、お父さんとお母さんが同時に死んじゃうなんてダメだから。ちょっと渋ったけど、納得して貰えた。
星結びの夜は死にかけた。フェルディナンドが暴走したから。加減覚えてよっ!! セックスでユレーヴェって(前世の心臓麻痺みたいな状態になって、魔力が固まり掛けた)…。
ちょっと嫌だったけど、養父様に相談したら、顔真っ赤にして、どうにもならなかったし(父さんには言えないし、お父様だとお祖父様にバレるし)、結局すっごく嫌だったけど、花捧げしたがっている神殿の巫女に頼み込んだ。所謂、風俗で勉強してって奴。
フランがどう慰めたら良いのか分からない、って顔してたよ。…笑えば良いと思うよって言う処だった。
そんなこんなを乗り越えて、私達は神様だけじゃなく、私達2人が身も心も夫婦になったんだ、って思った。
私はフェルディナンドに恋をしてるって言う自覚から、一気に愛してるって思ったんだよ。家族は家族でも、特別だって。
虚弱な私を気遣って、避妊具(魔術具であった)を暫くは使っていた。そろそろ2人の赤ちゃん欲しいって思ってた。
でも現実は残酷だった。
今、私は死んで、遺されたフェルディナンドが明らかに正気じゃない。莫大な魔力暴走、それこそ昔々の話にしか語られていないレベルの暴走で、このままじゃ沢山の人を巻き添えにして、フェルディナンドが死んでしまう。
【ダメっ!!!! 止めてっ!!!!!! お願いだからっ!!!!!!!!!!!!】
幽霊な私を、フェルディナンドは見えていないらしい。触れられないし、声も届けられない。どうして良いのか解らなくて、パニックになる。
【いやあああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!】
絶叫してしまった瞬間、熱を感じた。魔力とは違う熱。でも、それが何かは分からない。
その熱さに絶叫が止まり、視界が一瞬真っ暗になって、気が付けば目の前に、瞳を見開いた養父様が居た。
【え?】
「ローゼマイン?」
私の疑問と養父様の声が重なった。
「アウブ? どうされました?」
養父様周囲の側近が首を傾げる。
「どうしたって、透き通ったローゼマインが、」
【!】
私が見えている。そう思った瞬間、私は養父様の手を掴みに行った。触れた。
【お願いっ、フェルディナンドを助けてっ!!!!】
「何?」
そしてまた熱。真っ暗な視界。次に私はアレキサンドリアに帰ってきていた。養父様を連れて。
「此処はアレキサンドリア?
! 何だこの魔力っ!!? フェルディナンドに関係しているのかっ!!!!」
【そうですっ!! 私の遺体を抱いたまま、魔力を暴走させているんですっ!!! お願いだからフェルディナンドを止めて!! 死んじゃいますっ!!!!】
「なっ、くそっ!!」
養父様は魔力の出所を感知して、走り出した。
どうしてかは解らないけれど、養父様に私の姿が認識出来たのはこの時だけだった。
そして私は後悔する。生前の自分の決断を。
作品名:逆行物語 裏一部~ローゼマイン~ 作家名:rakq72747