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逆行物語 裏一部~ローゼマイン~

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哀しみがそして始まる



 フェルディナンドの魔力の暴走が一応治まったが、気を失ったままのフェルディナンドを心配した養父様が、エーレンフェストに連れ帰りたいと言った。
 顔色がまだ戻らないユストクスが、了承を示した。私が死んだ事で、様々な問題が出来る。今のフェルディナンドに采配を任せられないと、判断したらしい。
 そうして城は騒がしい悲しみに包まれた。

 私に名を捧げていたいと言った、エーレンフェストからの側近と、アーレンスバッハの信用されたい、と言う願いから名を捧げた側近。彼等はアレキサンドリアの統治に必要な人材だった。
 けれど、私が死んだから彼等も死んだ。今、城で私達の代わりに執政に関われるのは、名を捧げていない上級未満の貴族とユストクスくらい。
 身分差がモノを言う、貴族の世界では不利だ。主が不在では彼等を守る者が居ない。――執政は機能不全に陥った。その煽りを受けるのは、弱い平民達だ。

 グーテンベルクが、消えた。

 煽動されて、暴動を起こした民に、ランツェナーヴェ事変後から落ちぶれた貴族に、飼われていた身食いに何度も襲われて、お守りは消えて、あっと言う間に散り散りにされてしまった。彼等の最後は……、とても把握出来ない。
 社会情勢が不安定になったのを利用された。それだけ不安が溜まっていたのだ。アレキサンドリアとして、上手く遣ってきている、と思っていたのは間違いだったらしい。
 側近が余りにも優秀で、忠誠心も高くて、私のやる事に基本的に賛同して、多少の反対意見を持っても、頭を働かせて実現に向けて動いてくれるから、私は任せていたけど、もし上手く行かなかったら、その責は私にあるって解っていなかった。
 領地がどんな状況か、私は家族がいる下町だけを気にしていただけで、貴族を蔑ろにして、平民を取り立てるアウブがどんな風に思われるのか、解ってなかった。

 自分が何故、上級貴族の娘にされたか、その原因ばかりに気を取られ、本質を解っていなかった。

 エーレンフェストが上層を占める事も、長年、アーレンスバッハに居る貴族から見た時、それがどう映るのか、聖女にされた私には届いていなかった。

 女神の化身は只のお飾りだと思われていた本当の理由を知ろうともしなかった。

 “マイン”が救われた事で、“ローゼマイン”となった事で、蹴落とされた人がいる。
 新しい何かを作れば、流行らせれば、廃れる文化が生まれる。スパンが短い程、それは頻繁に起こる。
 効率を求めれば、人はいらなくなる。
 魔力量に拘らなければ、家柄にも拘る事もなく、それは貴族の基準を否定する。
 私が何かをする度、踏み付けられる何かがある。

 私が日本人の価値観や知識で、ユルゲンシュミットを否定する度に、一体、どの様な犠牲がどれだけの人を巻き添えにしていたかさえ、私は考えた事が無い。

 今にして思えば、エーレンフェストで起こったマイナスは、その犠牲が巻き起こしたモノだった。
 お祖父様に名捧げで苦言を呈されたり、次期アウブについて言われりしたのは、私に現状を把握しろと言いたかったのでは無いか。
 エーレンフェストの為と言う建前で、私に好きな事をさせた養父様が隠している事に気付け、と。

 ヴィルフリート兄様が甘やかされた様に、私も甘やかされていると。

 平民を大事にする私を、養父様が許したからこそ、神殿長になった私の為に悪評を負っている事をもっと真剣に考えるべきだ、と、事情を知る誰もが教えなかった。誰もが、私を甘やかした。

 今更気付いても、もう遅い。