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逆行物語 裏一部~ローゼマイン~

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カナシミがそして始まる



 養父様が亡くなった後、エーレンフェストの乱れ様は余りに酷かった。養父様が何より嫌い、避けたがった骨肉の争いが起こる。
 私は派閥と言うものが何なのか、漸く分かった。派閥は人、人の集団なのだ。人間関係が凝縮され、良くも悪くもその結束が力になる。
 自分の派閥を持つと言うのは、権力を持つと言う事で、その派閥の中心こそ側近なのだ。
 多くの人間を味方に持つには、利を与えなければならない。故に周囲を無視出来ず、時に足枷となり、振り回される。
 醜い争いが、望まぬ憎しみを、悲しみを、怒りを呼び覚ます。もし足枷を嫌い、壊せば、孤立無援となる。
 ほぼ孤立した中で生きていたフェルディナンドは、派閥を必要としなかったから、私に派閥を作れとは言わなかった。私もアウブにならないからと頓着しなかった。
 でも私にはやりたい事があったから突っ走って、自分からがっつり巻き込まれに行ってた。派閥を持たなかったフェルディナンドは、派閥に組み込まれる事で、養父様と対立しない様にしていたから、彼の私の為の調整は脅し、宥める、だ。それは養父様の名前の下で、敵を作ると言う事でもあった。
 私のやりたい事は、確かにエーレンフェストを、延いてはユルゲンシュミットを変える事で、その為には“力”がいる。権力がいる。権力は人の力の集団。派閥を都合良く利用して、その利を配らず、責任を果たさなかった私の盾になったのは、フェルディナンドじゃない、養父様だ。そしてフェルディナンドは剣だ、私の政策の武器だ。側近は攻防一体の鎧、と言った処だろう。
 剣が奪われ、力業になった様々な私の主張が、盾の力を壊した。今まで私の周りで、私の主張に染まった鎧では、売らなくて良い喧嘩を売るだけしか出来なくて、結果、私はエーレンフェストを飛び出す決断までした。
 そして…、遊び場だったアレキサンドリアでも私達は変わらなかった。その結果の悲劇が、今また、エーレンフェストを巻き込み、形を変えて、より大きな猛威となっている。
 
 養父様の願いを裏切って。

 今にして思えば全部。エーレンフェストの不和は私の存在があったから、だ。ゲオルギーネが何をしようとしても、私を守ろうとしなければ、あんなに揺らぐ事は無かった。
 ランツェナーヴェだって、王族だって、本当は関わらなかっただろう。アーレンスバッハが何をしても、エーレンフェストが脅威じゃなかったら、上からは無視されたんじゃない? 

 私は余計な事ばかりしているじゃないか。

 兄様が家族を裁く苦悩を考えもせず、競争させれば良いだなんて、私を何を思い上がったのか。身内と争う苦悩を知っていたから、養父様は避けたがった。その気持ちを否定して、踏みにじって、その後は関係無いと放り出して。

 私は、バカだ。

 結局、私は権力者の器じゃない。アウブなんてもっての他だ。結局、エーレンサンドリアを甦らせたヴィルフリート兄様が尤もアウブの器だったのだ。
 私が振り回した後始末は、まだまだ残っている。まるで魚の小骨みたいに、喉に引っ掛かって、胃に落とすには時が掛かる。

 喉に、引っ掛かったままの小骨もあるだろう。ダームエルとフィリーネの様に。

 忙しく執務に携わる兄様を背に、窓から空を見上げる。私は…、どうして地上にいるのだろう。死んだ皆の魂は高みに昇っているのか、会う事はない。こんな後悔ばかり抱えて、何も出来ず、漂うのは辛すぎる。

 手を伸ばす。窓を通り抜けていく。足が抜ければ、地上に行く。空には届かない。誰かの騎獣に勝手に相乗りしても、空は遥か高く。
 引っ込めた手を見て、又、空を見上げた。

 空が、崩れた。

続く