逆行物語 真一部~ローゼマイン~
カーオサイファの祝福
貴族院では挨拶回りをしている中、この当時のアウブ・アーレンスバッハが呼び止めた。
「実は婚約の話なのだが…、」
やはりガブリエーレ様の事みたいだけど、単なる打診だった。確かに上位領地の傲慢さはあるけど、もし受けてくれた場合の話とか、エーレンフェストの利を考えて、どうだろうか、と言う感じだ。
アウブ・エーレンフェストの感情を見ると、迷惑よりの困惑だったから、大いに擦れた話みたいだけど、それは説明しなきゃ伝わらないだろう。
…エーレンフェストが社交下手なのはお家芸って気がしてきたよ…。
底辺領地の常識貴族がアーレンスバッハに逆らえる訳ないから、そこは考えて欲しいけど、エーレンフェストの要らない花嫁を押し付けられた、と言うのは被害妄想も過ぎるよ…。
私の嫌な予感と未来の知識が融合していくのは、もう直ぐ、目の前だ。
「ああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
隠し部屋で嘆くガブリエーレ様。婚姻してから、ずっと酷い嫁イビりを受けていた。それでも夫を立てて頑張って来たのに、跡継ぎを暗殺された。もうね、旦那もその親も、第二夫人も最悪としか言い様がない。
第三子を妊娠中(臨月)のガブリエーレ様は、結局早産、そのせいで十分な魔力をベーゼヴァンスに与えられなかった様だ。私は彼が神殿に行かされた理由を目の前で見ていた。
拳を握る。曾て大が付くほど超絶嫌いな人だったヴェローニカ様とベーゼヴァンス、エーレンフェストにとって迷惑な害虫だったガブリエーレ様は、この時点では唯の被害者だった。
我が子を守る為、エーレンフェストの害悪になって行く様は、寧ろスカッとさえさせる。3人で、親子で支え合う様は父さん、母さん、トゥーリ、カミル達との絆を思い出させ、切なくもなった。
やがて、成長したヴェローニカ様は当時の次期アウブ、養父様の父様、先々代アウブに嫁いでいった。
ヴェローニカ様に自分が認めない限りは第二夫人や愛妾を持つな、と言う意味合いの事を言わせたのは、間違いなくグレッシェル家の卑劣さだ。
でも、それだって政略的に正しいからこそ、口に出来た願い事だし、第一夫人として、決して間違った事はしていないと、引退して、後ろからアウブ夫婦を支えていた先々代アウブ夫婦は認めていた。
それでもライゼガングはバカ騒ぎして、ヴェローニカ様をオトす事ばかり言っていて、私はかなり怒りに染まっていた。そして同時に気になっていた。
ヴェローニカ様と先々代アウブの温度差に。
感情のオーラが見えていた私には、ヴェローニカ様からの深い愛情と信頼、先々代からの無関心さが解っていた。先々代は特に相手がいなくて(好きな人もいなくて)、親の言いなりになって、星を結んだ相手に何も思って居ない様だった。
私は、この先が、怖かった。
やがてヴェローニカ様達は、養父様が洗礼式を迎えた折りに次期アウブと定めた。
ゲオルギーネの努力を考えれば可哀想だったけど、ヴェローニカ様の立場や、当時のエーレンフェストの状況では妥当な処だったと、第三者として見ているからか、私にもそう思えた。
寧ろヴェローニカ様はゲオルギーネの努力を見ていたからこそ、養父様の力になってくれると信頼を寄せていた。
結局、ヴェローニカ様はエーレンフェストを第一に考えるアウブ夫人で、ゲオルギーネは権力を握りたいだけの人だったのだと言う事だろう。
そう言う微妙な人の気持ちを、まだ幼い養父様には理解出来なかった。それはデブな人にブタじゃなくて人間だよ、と真剣に庇って、却って怒られる子供と同じ。後から振り返れば笑い話になる様なモノだけど、アウブの地位はそんな簡単なモノじゃなかった。
作品名:逆行物語 真一部~ローゼマイン~ 作家名:rakq72747