逆行物語 真一部~ローゼマイン~
カーオサイファの化身
崩れていく。ヴェローニカ様が。あんなに良い為政者だったのに。ヴェローニカ様を悪く言う者が、その狂気ぶりを嘲笑う。
曰く、嫉妬深く、醜悪な女だと。何を言う。ガブリエーレ様と言う大領地出身の第一夫人を蔑ろにした事を、感情論で正当化したのは誰。お前達が苦しむヴェローニカ様をバカにするのか。
フェルディナンドに何の罪もない。
一番の大罪を背負うのは、ヴェローニカ様を裏切った先々代じゃないか。ヴェローニカ様に、たった一言、真実を話せば親子として上手くやっていけたのでは無いのか。
養父様を可愛がっているけど、それは跡継ぎだからだ。妻を何とも思っていない。自分が連れてきたフェルディナンドも、ゲオルギーネの代わりとしか思っていない。魔力的には、ゲオルギーネより遥かに便利に使えるとしか、思っていない。魔石の出費は痛いけど、成長すればお釣りくるだろうとしか考えていない。己の不実を棚に上げ、ヴェローニカ様から疎まれているのをフェルディナンドの責任にする。
ヴェローニカ様には黙っていたのに、役立たずかもしれないと思えば、平気で養父様にアダルジーザの事をバラす。その癖、離宮に足を運んだと、嫉妬深いヴェローニカ様に知られて、今以上の面倒は御免だと話さない。
余りにも酷い。
曾ての私なら、ヴェローニカ様に怒り、叶うなら殺してでもフェルディナンドを助けたいと思っただろう。
勿論、今でもフェルディナンドを助けさせてやるから、ヴェローニカ様を殺せと言われば、私は迷わずヴェローニカ様を殺すだろう。
でもきっと、ヴェローニカ様に罪悪感を持つだろう。干渉出来るなら、ヴェローニカ様とフェルディナンドが良い親子になれる様に動く。何も出来ない事が恨めしい。
フェルディナンドは自分の心を守る為、先々代を恩人だと、父だと、家族だと思い込んでいる。
養父様はそれを否定せず、寧ろその思い込みが続く様に、頑張ってフェルディナンドの心を守っている。同時に崩れていく母を支えたいと願っている。
ベーゼヴァンスは姉を支えたいと願っているが、彼にはそれだけの力が無い。だから責めて、と。彼は共に堕ちる事を選んだ。
私は一連の流れを見て気付いた。
これが、養父様の歪な愛し方の理由だと。優しい虐待の原点だと。
養父様自身、レイプ事件の情報隠蔽により守られた事もあって、フェルディナンドから、父の本心を隠す事を選んだ。確かにフェルディナンドにはそれが有効な状況だった。
だから養父様は、それを過度に一般化してしまったのだ。兄様に対しても、私に対しても。きっとシャルロッテやメルヒオールに対しても、私が知らない処で甘やかしていたに違いない。
私が自分が甘やかされている事に気付かなかった様に、兄様達も気付かなかった。兄様の甘やかしに私が気付いたのは、気付ける状況だったからだ。それぞれ違う形で甘やかされて、兄様は悪い結果に現れ、私は最悪な結果を引き寄せた。
兄様の場合は、大人の都合に引っ張り回された不可抗力だけど、私の場合は養父様の甘やかしに乗っかって、自分から引き寄せた。
幾重にも憎しみと悲しみが絡まった過去を踏み付けて、私は不幸な未来を築いたのだ。
作品名:逆行物語 真一部~ローゼマイン~ 作家名:rakq72747