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逆行物語 真四部~下手の考え休むに似たり~

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ヴィルフリート~オコチャマな父親~



 麗乃が去って、私は溜め息を付いた。
「嘘も方便か。」
 日本の諺を敢えて口にして、私は笑う。本音を言えば、フェルネスティーネ様のお気持ちの方が、本が命な麗乃より余程解り易い。あそこまで本に執着する麗乃にこそ、同調が出来ない。
 だがそんな事を言った処で、平行線になる事は目に見えている。この先も話す事は無いだろう。
 …3人の“私”から学んだ事と、麗乃の見解にはズレがある。麗乃は家族愛に対する持ち方が同じだと見なし、ギュンターと父上が似ているとさえ感じている様だが、私から言わせて貰えば全く違う。

 ギュンターは大人だ。守るべき存在を間違えない。

 父上は子供だ。守るべき存在が何かさえ判断出来ない。

 人の数だけ真実がある、と言ったのは叔父上だが、それは叔父上が自分の真実を肯定する為だったのだと思う。
 人は長いモノに巻かれるモノだ。叔父上は巻いてくれる長いモノが無かった。長いモノに挙って否定された叔父上が、足りない長さで自分を守ろうとしてくれた父上の答えに縋った。

 お祖母様の真実より、父上の真実が心地良かったからだ。

 自分を守る弱い真実を信じたいが為、様々な立場の真実があると認め、自分の都合の良い真実だけを集めた。必死さや受け入れる度量の差はあれど、人は大抵そんなモノだろう。
 だから私が叔父上と違う真実を持っているのは当たり前なのだろう。
 私からすれば、父上に叔父上を守る義務は無かった。父上がまず守るべきは妻子なのだ。
 日本ならば夫が妻の味方をして、初めて姑とイーブンだと言うモノだが、ここはユルゲンシュミット。複数の妻や愛妾を持つ夫を受け入れ、婚家に馴染まなければならない。
 増しては執政の派閥に絡む事を思えば、言ってはなんだが、お祖母様と上手くやれない母上にも問題はあった。
 そしてその問題の中心は叔父上であり、父上はそれを解っていたのだ。にも関わらず、父上は叔父上を切り捨てられなかった。
 切り捨てられない癖にアーレンスバッハから妻を娶ろうともしなかった。つまり、お祖母様の表向きの主張でさえ叶える気がない。
 母上にその事を伝え、形だけでも母上からその事を持ち出させた上で母上を優先し、せめて叔父上には一切馴れ合わないとするなら、お祖母様も私を奪ったりはしなかったろう。
 父上がやった事は、皆で仲良くしたいと駄々を捏ねただけだ。子供と同じだ。
 確かにお祖母様の本音ー叔父上が父上に懸想しているので何をするか分からないーは建前ー叔父上はアウブの地位を狙っているーに隠されていたが、実際にそれは荒唐無稽な嘘ではない。
 あの時代…、お祖母様に好き勝手されるくらいなら、庶子であろうと叔父上をアウブに担ぎ挙げたいと願うライゼガングが如何程いた事か。
 カルステッドやエルヴィーラが何の打算もなく、叔父上に味方していた訳が無い。叔父上がその気であれば、恐らく大きく変わっていたのだ。
 父上は叔父上の性格だけしか見ていない。叔父上が麗乃と違い、迂闊では無かったから、政争にもならなかっただけだ。