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逆行物語 真二部~エーレンフェストの為に~

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麗乃=マイン視点~お兄様はお祖父様~



 私が兄様の元に戻ったら、まだ産まれていなかった。ああ、そうか、私が産まれた時に戻るからか、と納得した。考えて見れば、何時頃“知識”に気付く形になるんだろうか。
 取り合えず“マイン”が前世を思い出すまでは下町や神殿に居る事にしようと思った。

 4度目と違い、別に違和感を感じる事なく、“マイン”は動いていく。それを確認してから、私は兄様の処に向かった。…脱走中の兄様を見付けた。でも何だろ? 違和感がある。逃亡兄様が捕獲された時、確かに此方を見ていた事に気付いて、私は兄様の後ろをついていった。
 その夜。眠った兄様の身体から、私にしか感知出来ない光が現れる。それはうっすらとだけど、人の形となり、多分、兄様の意識が影響しているのだろう、年老いた姿の兄様へと変わった。
【魂の姿?】
【生き霊みたいなものだから、似たものだな。】
 思わず呟けば、返って来た答えが怖い。似てるなら、態々言い直さなくても良いじゃない。
【悪い、折角疲れが取れているのに。…少し話をしよう。】
 私のぶすくれた顔に、少し笑って兄様は提案する。何だかお祖父様と孫娘みたいな外観な気がするけど気にしなーい。
 兄様に連れられて、外に出る。考えて見れば、こうして夜の月をゆったりと見つめるのは、何時ぶりだろうか。考えたけれど、良く思い出せなかった。
【兄様はどうして逃亡しているのですか?】
 頭を軽く振って、尋ねて見る。
【巻き戻った先で“知識”を引き継ぐのは間違いないが、其れを認識するのは、“マイン”の覚醒に引っ張られる様だ。私が“私”になったのは、つい先日。
 …急にくそ真面目になったら、周囲は困惑する。今ならお祖母様に情報が行き易い。私の変化を知ったら、どう動くかが読みにくい。バグがあった前回とは違う。下手に動くつもりはないのだ。】
 私は兄様が愚鈍な振りを続ける積もりだと知る。
【…宜しいのですか? このままだとヴェローニカ様が…。】
【私は其方を敗北させる積もりは無いが、“マイン”を不幸にしたい訳では無いのだ。勿論、叔父上にも出来うる限りの事はしてあげたいのだ。
 その上でエーレンフェストを守りたい。お祖母様については覚悟を決める。
 孤児院は…、“マイン”に任せる積もりだ。済まないとは思うが。】
 …私ももう、あの頃とは違う。全てにおいて、最良を目指す事は出来ない。兄様が目指す次善の組み合わせに何を言う事もない。
【私は…、見ていますから。】
 だから見守る。兄様が何を選んでも。

 兄様が愚鈍に日中を過ごしているからか、夜は直ぐに眠っている。まあ、私と話をしているのだから、休んでいる意識は無いのかもしれないけど。
【兄様、あのテンションしんどくないですか?】
【子供も父上も偉大だな…。】
 精神が大の大人通り越して、それなりに落ち着いたお祖父兄様にはあの、

 「イヤだ、勉強等したくない! 私は逃げる!」
 
 で、走り回るのはやはりキツいらしい。何気に養父様に対して愛ある毒舌が飛び出す様になっているが、遠い目をしてるので、疲労の影響だろうか。
【はあ~~~…。】
 溜め息の後、私に向かって、“マイン”はどうしているかを尋ねてくるので、私も答える。概ね、何も変わらないと。