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逆行物語 第六部~ユストクス~

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主の考え



 主であるフェルディナンド様から呼び出された私達3人が命じられたのはハイデマリーを守れとの事だった。
 毒物に完全なる警戒を怠させるなとの事で、その為に避妊せよとの命を新婚であるエックハルト夫妻に伝えられ、私には怪しい者をエックハルト達に近付けさせない為、下働きの平民まで調べる事を命じられた。更にフェルディナンド様より近々神殿に行く事を打ち明けられた。
 ヴェローニカ様の陰謀で、アウブは神殿入りを命じる以外で、フェルディナンド様をお守りする事が出来ないからと。
 私は内心で歯噛みした。しかしフェルディナンド様は仰られた。
「暫し待て。必ず状況は変わる。ヴェローニカ様は自ら引退されるだろう。全ての蟠りを消す事は出来ぬが、必ず和解出来る。
 あの方は元々アウブ第一夫人に相応しく、聡明な方だ。必ずそうなる。」
 今までフェルディナンド様が本音を話される場で、ヴェローニカ様をお認めになる事は無かった。
「フェルディナンド様、一体、」
「詳細はまだ話せぬ。だが私を信じて欲しい。信じられぬなら名を返す。」
 私の言葉を遮って仰られた。そこまで言われ、返して頂く名ならば、初めから捧げていない。それは私だけでは無い。
 主は神殿にいながら、様々な執務をこなしておられた。神殿が多忙になってもそれをアウブには言わず、睡眠や食事まで削って任される執務を片付けておられる。…何故か楽しそうに。その為、止めるに止められなかった。
 ある年の夏場。平民の洗礼式を終えたばかりの日。フェルディナンド様に呼び出され、屋敷に向かった私達3人はそこでマインと言う少女を紹介された。

 “私の妻になる”、と。

 思考が停止するとはこの事だろう。フェルディナンド様は語られた。
「私とマインは夢で出会い、語らい、そして愛し合った。…しかし夢の中のマインは私を置いて先に高みに昇り、果てしないグリュックリテートの試練を受けた。
 夢の中、マインは何度絶望を味わっても、現の私の元へ行くのだと決して諦めなかった。ある協力者の手を借り、遂に試練に打ち勝った。試練の間に得た様々な知識を使い、私達はこれから先を予測出来る。それを利用し、私達はエーレンフェストを発展させ、幸せになる。
 其方等には協力を頼む事になるだろう。力を貸してくれ。」
「「「勿論です。」」」
 私達は異口同音で即答した。そして。
「まずはヴェローニカ様にお許しを得ようと思う。」
「「「はい??」」」
 耳を疑ったが、ヴェローニカ様と和解出来ると仰られた事を思い出す。
「和解、と御関係が?」
「大いにある。彼女は私にエーレンフェストを出ぬなら、誰でも良いから真に想う女性を見付け、婚姻して欲しかったのだ。」
「? 何故です??」
 意味が解らない。しかしフェルディナンド様はそれ以上は語られなかった。
 その後、実際にヴェローニカ様とお話しされると、ヴェローニカ様が引退されると宣言され、フェルディナンド様の平穏が始まった。
 その後、“娘を不幸にしたら許さんぞっ”、と怒鳴るマインの父親や“マインを御願いします”と頭を下げる母親とマインと抱き合う姉とも会い、フェルディナンド様は本心から笑みを浮かべられた。
 特に父親のギュンターを好ましく思っている様だ。更に彼はアウブ夫妻に対しても一歩も引かず、“娘を不幸にするなら、領主様だろうが、王様だろうが、神様だろうが、絶対に許さんからなっ”と啖呵を切り、何故かアウブに懐かれていた。