逆行物語 第六部～ユストクス～
主の願い
マイン、いえ、ローゼマイン様の産み出す新産業に対する扱いもどんどんと話が纏まって行く。
その一方でフェルディナンド様はベーゼヴァンスにある事を命じられた。
神殿長であったベーゼヴァンスは引退し、ヴェローニカ様と一緒にお住まいになるべく動いているが、フェルディナンド様と重要な話があったそうだ。
盗聴防止の範囲の中から弾かれたので、何を会話されていたのかは解らないが、フェルディナンド様はその後で申された。
「ベーゼヴァンスはアーレンスバッハに嫁いだゲオルギーネ様と親しくされていたが、これよりはヴェローニカ様のお心に添う為、ゲオルギーネ様との繋がりを切る様に命じた。」
ゲオルギーネ様?
「確かアウブの姉君であられましたね、その方と繋がりがあれば、ヴェローニカ様には不都合があるのですか?」
尋ねるとフェルディナンド様は少し考える素振りを見せた。そして盗聴防止の魔術具を出された。
「ユストクス、実はずっと考えていた事がある。」
私も自身の盗聴防止の魔術具を取り出し、発動させるとフェルディナンド様が言い出された。
「其方に名を返したい。」
絶句する。
「そしてもし、其方が良いならばヴィルフリートに名を捧げて欲しいのだ。」
私は一瞬の内に力を込めていた。
「何故、と伺っても?」
「いざと言う時、私からローゼマインを守って欲しいからだ。」
ヴィルフリート様に名を捧げて欲しいと仰らなければ、私は只のノロケかと思ったかも知れない。
…“力尽くでも止めよ”、との命を遂行するいざと言う時等、秋を待たず(まだ初夏さえ迎えていない春爛漫な時期ですが)冬を迎える時くらいしか、思い付かないからだ。
しかしヴィルフリート様に名を、と仰られた時点で、その様なモノでは無いと分かる。
「ヴィルフリートが私とローゼマインを天秤に掛けるなら、間違いなくローゼマインを取る。
その時、其方にはヴィルフリートにとって本音を話せる人間であって欲しいのだ。」
出来れば、なのだから必ずしもヴィルフリート様に名を捧げる必要は無いのだろう。
しかし名を返して貰う事さえお断りすれば、私は2度と信頼されないのでは無いか?
「……名を返して頂く事が命ならば、従います。しかしヴィルフリート様に名を捧げるかどうかは…、即答しかねます。
それと…、お言葉ですが、ゲオルギーネ様のお話との脈絡が繋がりません。」
そう答えると、フェルディナンド様は眉を僅かにしかめられた。
「何処から説明すべきか…、そうだな、まずゲオルギーネだが、あの女は権力に執着している。」
苦々しく仰られるその様は、嫌悪に満ちている様に思える。正直、フェルディナンド様がここまで感情を露にするとは思わなかった。
「ヴェローニカ様が次期アウブにジルヴェスターを定めたのは正しい。真にアウブになりたかったのならば、幾ら悔しくとも理解した筈だ。
だがゲオルギーネは違った。次期アウブの座を返せと言わんばかりに、ジルヴェスターに…、一生消えない傷を何度も残した。
生まれ持った性根がネジ曲がっていたのか、元々好意を持てば、対象が人であろうが、モノであろうが、間違った求め方をする女だった。憎悪の対象にはもっと、だ。
歪んだ好意と次期アウブを巡り、産まれた悍しい憎悪…。それが発覚し、ゲオルギーネは厄介払いされた。そしてアーレンスバッハで破壊衝動と破滅願望を育てているのだ。
ベーゼヴァンスは事の詳細を知らぬ。ヴェローニカ様が当時、如何程苦心して、ジルヴェスターを守っていたかを知らぬのだ。
そして…、その事を知っているのは本来ならジルヴェスターとゲオルギーネにヴェローニカ様、後はカルステッドとリヒャルダだけだ。その筈だったのだ…。」
その仰り方に気付く。
「以前、お話しされた夢ですか?」
試練の間に得た知識、その中の1つでは?
「その通りだ。そしてそれが、私に対する排斥行動の理由だった。」
私は少し考えを廻らせた。
「フェルディナンド様が、アウブを害すると? だからアウブの座を狙っていると思われたと?」
作品名：逆行物語 第六部～ユストクス～ 作家名：rakq72747