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逆行物語 第六部~ユストクス~

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願いの理由



 私から言わせれば荒唐無稽だが、それはフェルディナンド様の性格や意思の強さ(頑固さとも言うかも知れないが)を知っているからで、エーレンフェストにいる全貴族がそうではない。そして派閥闘争を思えば、フェルディナンド様の後ろ楯になりたいと言い出す輩もいるのだ。ヴェローニカ様が本当に警戒したのはそちらだった? 
 …どちらにせよ、確かにアウブは呑気だ。更に優柔不断で母親の傀儡で能力も無い。
 時として苛立ちながらも、本心から敵対出来ないのは、アウブにフェルディナンド様を守る義務はなく、寧ろアウブに相応しい性質に、能力や決断力があるならば、守る処か切り捨てられたと解るからだ。
 母親を切り捨てられないのではなく、弟を切り捨てられないから甘いのだ。
 そしてその様な流れの中で、エーレンフェストの為に、とフェルディナンド様のお心や考えが変われば、ジルヴェスター様が危険だ。
 そしてジルヴェスター様の実の姉であるゲオルギーネに作られた負の実績と、自らの過去を思えば、ヴェローニカ様がフェルディナンド様を警戒されていたのは無理無いのかもしれぬ。
 だとすれば平民の子供と婚姻したいとヴェローニカ様に頼れば、確かに警戒心を解いて貰えるのも解る。
 以前、そう仰られなかったのは私達が反対する事を考えられたのかも知れぬ。
「夢の世界では私はヴェローニカ様と和解出来なかった。それどころかローゼマインとジルヴェスターを使い、陥れた。当然、領内は荒れた。そこをゲオルギーネに利用されたのだ。 
 更にローゼマインを守る為の政策がユルゲンシュミット全体に影響を及ぼした事で、ゲオルギーネはアーレンスバッハを巻き込み、エーレンフェストを追い詰めていった。
 最終的に私とローゼマインは、エーレンフェストとジルヴェスターを裏切った。その癖、裏切りをも許したジルヴェスターの、馬鹿の様な人の好さを利用し尽くした。
 間違いである事に気付いた時には、もうどうにもならなかった。…その一番の犠牲者がヴィルフリートだ。」
 私は気付く。
「夢の世界…、ヴィルフリート様も持っておられるのですね?」
「そうだ。夢の世界の記憶には、信じ難いだろうが、神々が関わっている。元の始まりはローゼマインだ。故にヴィルフリートは嫌でもローゼマインを切れぬ。上手くやっていくしか選択肢が無い。私はローゼマインの夫となる身で、それを双方共に望んでいる。だからヴィルフリートは私を切れぬ。
 逆を言えば、私がローゼマインの敵になるならば、ヴィルフリートは私を切るだろう。そして必ずしも有り得ない話ではない。
 神話のエーヴィリーベにはなりたくない。だが私の性格は十分な素養を秘めている。
 だからその時が来るならば、ヴィルフリートの助けになって欲しい。そして叶うならば、ヴィルフリートが本音を話せる相手として、傍に居てやって欲しいのだ。
 恐らく、今のヴィルフリートには心を預けられる者がおらぬ。未来に現れるかも分からぬ。
 只、隠すだけだ、完璧に。夢の世界ではボニファティウス様より年齢が上になるまで生きていた分、老獪に。若い身体に引き摺られる感性も含めてな。
 正直な話、私にもヴィルフリートの本心は見えぬ。あくまで推測だ。だが夢の世界のヴィルフリートの身になって考えれば、自ずと解る。

 ――償いたいのだ。

 ローゼマインが気付かぬ分まで、ローゼマインに気付かせぬ分まで。」
 私は直ぐに返事を出来なかった。それがフェルディナンド様の望みと言えど、ヴィルフリート様に名を捧げる程の気持ちが無いのだ。
 しかし間違った時に諌める事は、名を捧げた者には難しい、いや、不可能だ。
「私にとって、主はフェルディナンド様でございます。ヴィルフリート様に捧げる名は今はありません。
 しかしフェルディナンド様が、時に押さえられる事が必要なのであれば、名を返して頂く命に従います。」

 私がヴィルフリート様に名を捧げる事になるのは――――。