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逆行物語 第六部~小さな思い出たち~

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ハルトムート~第二次成長期、或いは反抗期~



 アウブに隠された長子がいる。平民育ちで神殿に庇護された長子が。並外れた虚弱体質だった為、已む無く貴族から除籍しようとした長子。
 ヴィルフリート様の姉、ローゼマイン様。ユレーヴェで1年漬かった事があり、1年遅れで洗礼式を迎えた、ヴィルフリート様の妹、ローゼマイン様。
 神殿に行った、アウブの異母弟、フェルディナンド様の婚約者。
「出来すぎた話だと思いますが。大方アウブにフロレンツィア様に言えないお相手でも居たのではないですか?」
 少々品の無い言い方になってしまった。だが無理は無いだろう。母上が此方に軽く睨んで来たが、言葉を改めるつもりはない。
「ハルトムート、洗礼式の準備の為、アウブが城に連れてきたローゼマイン様の真実がどうであれ、アウブとフロレンツィア様の娘として、やって来るのです。
 お姿を拝見した処、領主候補生として申し分はございません。いえ、並みの領主候補生よりご立派でございました。
 アウブもフロレンツィア様もそれは大切にされている事が伺えました。フロレンツィア様はローゼマイン様を“私の水の女神”と仰いました。
 リーベスクヒルフェがアンハルトゥングに祈った処で、ゲボルトヌーンを困らせると解っては、フェアベルッケンを破る御力等与えては貰えませんよ。ドレッファングーアのお怒りに触れるおつもりですか?
(意訳:無闇に真実を探そうとしても、味方処か敵を作るだけです。お止めなさい。)」
 私はピクリと眉が動くのが分かった。どうやらフロレンツィア様との間は良好らしい。
 これはフェルディナンド様…、神殿に追いやられたアウブの異母弟がローゼマイン様をご教育していた事に関係しているのかも知れない。確かヴィルフリート様も今はフェルディナンド様が教育係だった筈だ。
 つまり…、フェルディナンド様もフロレンツィア様も、ヴェローニカ様に下ったと言う事では無いか。何故気付かないのだ? 
「ハルトムート、もしかしたら貴方に側近の話が来るかも知れないわ。」
「母上はヴェローニカ派になると仰るのですか?」
 私の怒りに母上は溜め息を吐く。
「ヴェローニカ様は引退され、今はれっきとしたアウブ派ですよ? これからはフロレンツィア様の派閥と融和していくでしょう。」
 だからそれがヴェローニカ様に下った事では無いか!!
「確かに最初から何もかも上手くは行かないでしょうが、アウブ夫妻は仲が良ろしいのですから、派閥融和を目指されるでしょう。
 どの道、オルドシュネーリの加護を得ねばなりませんのよ(情報が必要)?」
 私の怒りに気付いているのだろうが、敢えて無視をする母上の言葉を黙って聞く。
「変わっていく領内は、影響力を上げて行く好機です。ハルトムート、貴方もエーレンフェストの上級貴族として、しっかりね。」
 …領内の影響力? バカバカしい。
 すっと熱が下がる。大人達は知らないのか、今のエーレンフェストを。他領からどう見られているかを。
 私は内心で、狭い視野しか持たない母上を含む大人達に、世間知らず、との称号を与えた。