逆行物語 第六部~シャルロッテ~
お茶会~後編~
私が泣き止み、落ち着いて暫くして、お母様が“そう言えば”、と言われました。
「ヴィルフリート、実はエルヴィーラから相談があったのですが。」
相談を受けて直ぐ、アーレンスバッハから叔母様の訃報と葬儀の連絡があった為、まだ何も話せてなかった内容が語られました。
「実は貴方の絵物語を見たトルデリーデが、是非、自分も同じ題材で作りたいと、」
「まーっ!! 本が増えるのですねっ!! メスティオノーラとグラマラトゥーアに感謝を!!」
「え、いや、待て!」
お姉様が祝福付きで、大喜びするのは解りますが、何故、お父様が焦ってるのでしょう? お兄様の絵物語と言うと、シュミルのお話でしょうが、何かあるのでしょうか? 首を捻ります。
「書くのは自由ですが、特殊な内容ですし、本格的に売り出すなら、成人指定にして下さい。」
「兄様、私が読めないではないですかっ!!」
「仕方無かろう、“それともあんな話、教育に悪い”と言われたいか?」
「お兄様だって子供ではありませんかっ!!」
「だから私も読みはしないが? それにトルデリーデだって、ニコラウスにその道を進めたい訳ではあるまい。」
「うぐっ、」
お兄様とお姉様の早い言葉の応酬に、お父様が何時口を挟むべきかと、迷っています。
「しかし、トルデリーデが作家か。広い意味ではエルヴィーラと似ているのはないか?」
「そうかも知れませんわね、殿方自身の価値観が変わらない限り、同じ種類の花に目が行くものですからね。」
お母様が困った顔で言います。
「男性にとって、恋は狩りに似ていると本で読んだ事があります。だから似ている人を選ぶんだそうです。
でもお父様とお母様は農業な気がします。耕した畑に色んな種を撒いて、作物を育てて、収穫するんですよ。」
「ローゼマイン、その言い方は駄目ですよ。」
気分を落ち着けたお姉様に、お母様が注意しました。この時は分かりませんでしたが、例えが冬の始まりから一番寒い日、更には春の始まりまで(前戯から射精時までと出産)までを連想させますから。
「母上以外の女性相手なら、狩りが成立しそうですがね、父上が狩られる方で。」
「ぶっ!!」
「草食越えて絶食系な父上を狩る肉食女子…、間違えて口にしたら、アナフィラキシーショックを起こすだろうな…。」
当時は良く意味が解りせんでしたし、後になっても冬に対する事、くらいにしか理解出来ませんでしたが、お父様が耳まで真っ赤にしていたのが印象的でした。お母様は額を押さえていたと思います。
「…それとトルデリーデがエルヴィーラの劣化作の様に、主役が変わっただけ、と言われる事を気にしていまして…、どうも、彼女1人の感想に思えますが…、」
「差別化を図りたい、と言う事であるば解りますよ? でも困りましたね…。表現方法とかは私も詳しくありませんし。」
話を少し戻す様に仰ったお母様に、お姉様は首を傾げています。
「お兄様、何か案はありませんか?」
お兄様が少し考えて、言葉を口にします。
「…難しいな。表現方法については作家の領分だ。だが私達が具体案を出せば、それに縛られかねない…。
そうだな、方向性を決めて、トルデリーデに任せる方が良かろう。」
「方向性?」
「ああ、どうせ成人指定なのだ。表現方法に気を使わない、と言うのも有りかも知れぬ。最初に必ず読んで貰える注意書をしていれば、問題はなかろう。
…少々待て。」
作曲!? こんないきなりっ!!? お兄様は灰色の持ち歩かせている植物紙を受け取ると、楽譜を書き始めたのです!
「スキャンダラス・ブルー?」
お姉様が何か呟きましたが、驚きの余り、私は聞いていませんでした。そして作曲が終わると、怒濤の勢いで作詞に入りました。癖なのかどうかは知りませんが、お兄様は作詞は最初、暗号をお使いになるのです。そして一部を書き換え、指折り何かを数え、そして完成した詞を、私達に解る書き方をするのです。
私がお兄様の曲作りを見たのは、これが最初でございました。
「出来たぞ。これを最初に入れて置くのだ。」
「いやああああっ!!!!」←お父様の悲鳴です。
やがてこのトルデリーデはペンネーム(お姉様の造語)、アップルエデン(お兄様命名)にて活動し、図らずともアーレンスバッハとの関係強化に役立つ事となるのですが…、それはまだ少し先の話でございました。
作品名:逆行物語 第六部~シャルロッテ~ 作家名:rakq72747