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君を守りたいFBIと無意識に頼っているゼロ

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 珈琲の香ばしい香りに白米の焚きあがりと出汁の香りと言う、日本と欧米の香りが降谷の意識を目覚めに導く。
(腹・・・減ったなぁ〜〜)
どこかのんびりとした感情を持ちながら、降谷は少しだけ重く感じる瞼を持ち上げた。

見慣れない天井と壁の柄。
体を優しく受け止めてくれているベッドは高級なものだと解る。
閉じられたブラインドの隙間から入り込む日差しは、確実に昼を告げている。

「どこだ?ここ・・・。!というか!今は何時」
「11時を少し回った所ですよ」
発した言葉に返事が返され、降谷は声がした方へと顔を向けるだけでなく体を起こして迎撃の態勢を取ろうとしたが、全身の鈍痛と左上腕部の激痛に加えて押し寄せためまいに、起こしかけた体は大きくぐらついた。
「無理はいけませんよ? 安室さん」
ベッドから転げ落ちそうになった降谷の体を難なく抱き留めたのは、工藤邸に居候している大学院生、沖矢昴だった。

「ここは工藤邸の客室です。昨夜の騒動で毛利さんご一家がエッジ・オブ・オーシャンへ向かわれたと聞き及んで心配になった私が向かっていたところ、あなたがフラフラになってこちらへと歩いてこられ、目の前で昏倒されてしまわれたので、こちらへ運んだというわけです。傷の具合を考えますと救急車を手配しようかとも思ったのですが、如何にせん、昨夜のあの状態では難しいのではないかと思いましてね。常備していたキッドを使って簡単な治療は施しておりますのでご心配なく」
降谷の体を床上に戻し上掛けを肩口までかけなおして休ませた沖矢は、降谷が訊きたかったであろう事柄の全てをすらすらと口にした。
「ああ。貴方のモバイルは枕元に置いてありますから、営業所に連絡すると宜しいでしょう。ただし! 今日一日は体を休めておかないと、感染症を併発したり貧血で再び昏倒する事になりかねないので、帰宅はおすすめしません。よろしいですね?!」

穏やかな表情、というか感情を読み取れないアルカイックスマイルを崩さぬまま、沖矢は有無を言わさぬ重圧を言葉と共に降谷へと向けてきた。降谷は池の鯉の様にパクパクと口を開閉するばかりで、異論を発する事が出来なかった。
「今、朝食兼昼食をお持ちしますので、そのまま休んでいてください」
沖矢はそう言うと軽いスリッパの音を立てて退室していった。
枕に頭をつけた降谷は、バクバクと激しい鼓動を繰り返す心臓の音を耳元で感じていた。

(助けられた?この俺が?・・・なんであいつに!!)

怒りの感情が、自分と沖矢=赤井に湧き上がる。だが、同時に安堵の感情も片隅に確かに存在している。
組織の人間の目に留まらなくて良かったし、情けない姿を部下達に見られなくて良かったと

(!なにを安心してるんだ!あいつは絶対に赤井秀一なんだ!そいつに助けられて良かったと思うだなんて・・・。腑抜けになるのもいい加減にしろ!降谷零!!)

床上で降谷は強く拳を握りしめた。
結果として、派手に切った左上腕の激痛を呼び覚ましただけだったが


 沖矢の持ってきた昼食は、どんぶり山盛りのつやつやした白米に、トン汁、ほうれん草とベーコンのバター炒め、大根おろし付きの肉厚な焼き鮭、南高梅の梅干しに緑茶。
「ご飯も汁もお替わりがありますから、体力が回復する位召し上がっていって下さいね」
「あか・・・沖矢さんは?」
「ああ。私は味見に何度も摂ったので、今はご遠慮させて頂きます」
「なぜ?」
「いやぁ。実はお隣のお嬢さんに『煮物ばかり』とご指摘を受けましてねぇ。少しずつ料理のレパートリーを増やしているところなんですが、味付けに不安があるので味見の回数が多くって・・・。いやはや面目ない」
沖矢はハハハと照れたように笑い、降谷へ箸を差し出した。
「どうぞ? 味が物足りなければ調味料を持ってきますので、遠慮なく仰って下さいね」
ニコニコという擬音まで聞こえてきそうな笑顔を向けられて断るのも大人げないと、降谷は箸を受け取ると
「はぁ・・・。では、遠慮なく」と言ってから小さくいただきますと呟くとトン汁から口をつけた。
ふわっと広がる出汁の香りと野菜や豚肉から染み出した旨味を舌に感じた瞬間、降谷の食欲に火が付いた。
まさに『掻っ込む』を体現した勢いで白米が減り、トン汁が流し込まれる。
阿吽の呼吸で沖矢がお替りの白米とトン汁を差し出し、降谷は合計3杯のどんぶり飯と4杯のトン汁を平らげたのだった。

満腹になれば瞼が重くなるのは必然だ。
「傷の化膿を防ぐ目的で、この抗菌剤と解熱鎮痛剤を服用されたらひと眠りなさって下さい。目が覚めればいつもの貴方に近づいている筈ですよ」
沖矢の言葉に従うのは業腹だが、自然の摂理に逆らうのは今の降谷には至難の業だった。
上掛けの上からポンポンと軽く叩かれると強力な安心感が押し寄せてきて、降谷は素直に瞼を閉じた。
眠りに落ちる直前、降谷の口をついて零れたのは、きっと無意識がさせた事。

「ありがとう、あかい」

囁くようなその言葉が沖矢=赤井を喜ばせたことを知るのは、工藤邸のキッチンだけだった。

2018.05.22