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約束1

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約束1


安室と共にカジノタワーを白鳥の衝突から守ったコナンは、安室に抱えられた状態で隣のビルのガラスを破って飛び込んだ。
その時、コナンを庇った安室は左腕に深い傷を負ってしまう。
「安室さん!」
安室は左腕の傷から溢れる血を右手で押さえながらコナンに向かって笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ、大したことない」
「んなわけねーだろ!」
無理して笑っている事くらいコナンにだって分かる。
コナンはとにかく出血を止めようとポケットからハンカチを取り出し安室の左腕をキツく縛る。
「痛っ…」
「出血が多い!急いで病院に行かないと!」
ビルを見渡すが、まだ建設途中のビルは電力が通っておらず、エレベーターは使えない。
「安室さん!風見刑事に連絡は取れないの?」
「あいつは今、別件で動いている。大丈夫だよ、それが片付いたらこっちに来てくれるから、君はもう帰りなさい」
「何言ってるの!?こんな状態の安室さんを置いて行けるわけないだろう!」
「救急車は…呼んだら立場上やっぱり不味いよね?」
第一、今回のIOTテロの影響や白鳥の落下の影響で都内はパニックに状態だ。
それにエッジオブオーシャンに繋がる橋も酷い渋滞で、おそらく救急車を呼んだところで直ぐには来ないだろう。
コナンは、とにかく下に降りて誰か他の公安の刑事に任せるしか無いと、安室に手を貸して階段を降りようとするが、出血のせいか安室の意識が朦朧とし始めていることに気付き焦る。
「安室さん!」
『とりあえず俺だけ降りて誰かを探しに行くか?しかし、この状態の安室さんを一人でここに置いておくのは危険だ。出血でショック症状を起こす可能性もある』
その場合、直ぐに対処しないと命に関わる。
かといって今の幼児化した自分の身体では安室を抱えて階段を降りることも出来ない。
どうしようかと辺りを見渡すと、工事関係者の忘れ物らしいリュックを見つける。
何か無いかと中を見ると、予備の作業着と帽子、そしてタオルが入っていた。そしてまだ未開封のミネラルウォーターのペットボトル。
コナンはとりあえずタオルで傷を押さえてしっかりと止血する。
傷のせいか安室の身体が発熱し始める。
「不味いな」
コナンはペットボトルの蓋を開け、安室の口元に当てる。
「安室さん、水だよ、飲んで」
しかし、既に意識の殆んど無い安室は飲む事が出来ない。
「ダメか、仕方ない」
コナンは水を自らの口に含むと、自身の唇を安室の唇へと重ね、口移しで水を飲ませる。
ゴクリと水を飲み下すのを確認すると、数回それを繰り返して水を飲ませる。
「ふぅ。しかしどうする?ここからどうやって安室さんを下に降ろす?」
口元に手を当て見渡し方法を考える。と、上着のポケットから、カラリという音が聞こえる。
何が入っていたかと思い、ポケットに手を入れそれを取り出す。
「ああ、これは…」
コナンの手にはピルケースが握られていた。
その中身は、修学旅行の時に哀から貰ったAPTX4869の解毒薬。最後の一錠を飲まずに服部と共に帰って来た為、残っていたのだ。
哀に返さねばと思いつつ、返せずにずっと持ち歩いていたのだ。
そして、コナンはリュックに入っていた作業着を思い出す。
「…これしか無いか…」
コナンは安室の意識の無いことを確認すると、服を脱いでブカブカな作業着を羽織る。
そして、深呼吸をするとAPTX4869の解毒薬を口の中に放り込み、ミネラルウォーターで一気に飲み下す。
「はぁ…」
小さく息を吐くと、ドクリと心臓が大きく脈打つ。
『来た!』
そして、身体がどんどん熱くなり、汗が大量に溢れ出す。
「はぁはぁ…」
次にドクリと心臓が跳ねた瞬間、いつものあの痛みが全身を覆い尽くす。
「ぐっあ…あああああああああ!」
身体から湯気が立ち昇り、骨がギシギシと音を立てて伸びていく。それと同時に皮膚や内臓が引っ張られ大きくなっていく。
「あああああああ!」
身体中の骨が骨折したのでは無いかと言うような激痛と身体が溶けるような熱さが全身を覆い、コナンはただ両手で自身の身体を抱くようにしてその痛みに耐える。
そして、新一の身体へと戻った後もしばらくその痛みの余韻に身体を丸めて身体を震わせる。
「相変わらずキッツイな…」
荒い呼吸をなんとか整え、額の汗を拭う。
そして立ち上がると、作業着のズボンを履く。
「クソっ、デカイなこの服」
一緒に入っていたベルトでウェストをギュッと締めてずり下がらないようにし、裾も何回か折りあげる。
「流石に靴は無いか…」
新一はコナンの服をリュックに放り込むと、
念のためにと帽子を目深に被り、安室の元に駆け寄る。
そして、安室を肩に担ぎ階段を降りていく。
新一の身体になったとは言え、意識の無い大の大人を抱えて階段を降りるのはかなりキツイ。
赤井に比べれば小柄ではあるが、しっかりと筋肉のついた安室の身体は思ったよりも重かった。
「ったく!いい身体してんな。俺ももっと鍛えねーと」
はっはっと息を吐きながら必死に階段を降りる。
その時、耳元でボソリと呟く声が聞こえる。
「…な…んだ…?誰…?」
気が付いた安室が、朦朧としながらも自分を抱える男に視線を向ける。
新一は帽子で顔を隠しながらも安室が安心する様に優しく答える。
「ここの工事関係者ですよ。大丈夫ですか?怪我をしているようなので今、下に降りています。辛いでしょうがもう少し頑張って下さい」
「…子供が…居ませんでしたか?」
「…子供…ですか?そういえば俺がここに入って来た時、小学生くらいの子供がこのビルから出ていくのを見ましたがその子ですかね?」
新一の答えに、安室は少し間を置いて、「そうですか…」と答えると、また意識を失ってしまった。
「ふぅ…急ぐか…」
新一は安室を抱え直すと、また階段を降り始める。
なんとか一階まで降りて外に出ると、安室を探しに来ていた風見刑事がこちらに気付いてくれた。
「降谷さん!」
こちらに駆け寄る風見にホッと息をつく。
風見は安室の怪我に驚きながらも、新一から安室を受け取る。
「すみません、ありがとうございます。…あなたは?」
「ここの作業員です。この方が倒れていたので、とりあえずここまで運んだんですが…」
「この応急処置もあなたが?」
完璧な応急処置に、風見は少し驚きながら目の前の男に確認する。
「え?ええ。かなり出血していますので早く病院へ!ショック症状などは起こしていませんが発熱しています」
目深に被った帽子の下から見えたブルーサファイアの瞳は、どこかで見た事のあるもので、風見は少し見入ってしまう。
すると、それに気付いた新一がサッと目を逸らし、風見に早く安室を病院に連れて行くように促す。
「感染症の心配もありますので急いで!」
「あ、ああ。すまない」
風見は安室の身体を支えながら、新一に背中を向けて車の方へと歩みを進める。
そして、ふと足を止めて振り返る。
「君の名前は?」
しかし、男は既に背を向けて走り出してしまっていた。
その後ろ姿を見て、風見は驚く。
明らかにサイズの合っていない作業着。おまけに彼は靴を履いておらず、裸足だった。
「待て!」
引き止めようと叫ぶが、男は風見から逃げるように走り去ってしまった。
作品名:約束1 作家名:koyuho