棘の役割
「本田殿!」
「おや、エマさんにnさん。戻ってこられたのですね」
自宅なのであろう家屋に訪れると日本が草木に水をやっている所だった。
「どうでしたか?」
「ニホン国内は全て回ったからな。どこもかしこもシキの噂ばかりだったぞ」
「おやおや……だいぶ暴れてらっしゃるみたいですからね」
「アキラも相変らず、あの男と一緒らしい」
水に光が当たり小さな虹が出来ていた。
不思議と穏やかになる光景に戻ってきたのだと実感した。
「遠征もしているみたいですが、お会いしたりはしなかったんですか?」
「遠くから見ていただけだ」
「そろそろ纏まる頃だと思うのですが」
「そうだな。今は小規模な反乱がいくつかあるだけだし、ライン兵の前じゃあ勝算もない」
日本と話し込むエマは昔よりもずっと生き生きしていると思う。
「では、近いうちに会いに行かれてはいかがです?」
「シキに、か?」
「会いたいのはアキラさんでしょう?ここに数日後の演習の日程表がございます」
にこりと笑って、袂から取り出された紙片は一級の機密事項なのではないかと思うが、日本の笑顔の前では無駄なのだろう。
それを戸惑いながら、エマが受け取る。
「アキラさんの部隊のみで動く場所がございますから」
「……いくか?」
エマが此方を向き、紙片を振った。
少し考えてから、会いたいと思い頷いた。
うん、会いたい。
あれから、したい、と思うことが増えた。
それを日本に告げれば「それは良いことです」と笑ったけど。
「それでは、御武運を」
笑った日本に見送られ、エマと連れ立って庭を後にする。
「それは可愛い義妹に会いに行くか」
「あぁ……」
「楽しみだな」
「そうだな」
これから会えるだろう少女に思いを馳せて。
俺たちの存在が彼女を守る棘になればいいと思った。