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日向バカの影山の話

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冬。
2月の終わりに差し掛かるころ
烏野高校排球部の部室にて、いつも通り部員たちは部活が終わり着替えを済ませている時だった。

日向は隣で自分と同じように制服に着替えていた影山に話しかていた。

「今日は彼女と一緒に帰らなくていいのか?」
「…おう」
「じゃあ坂ノ下でなんか買って帰ろうぜ」

昨日影山は一ヶ月前に出来た彼女と初めて一緒に帰った。
春高予選を勝ち抜き、一気に有名になった排球部男子たち。
以前から何かとその容姿から女子に目を付けられていた月島に加え影山も倣うように女子からの告白を受けるようになっていた。

影山は着替えを済ませ苦虫を潰したような顔をして呟いた
「俺昨日、初めて自分から彼女に別れてほしいって言った」
その発言にピクリと反応したのは菅原と日向だった
「でも、凄いショックでした。」
日向がどうしたと心配して
「何で?」と聞き
菅原は「普通、自分から別れ告げたら多少なりとも気が楽にならないか?」と問うた。
「へぇ、来るもの拒まず去るもの追わずの王様がねぇ、何?とうとう相手の子孕ませちゃったとか?」
「あ?なんか言ったか?」
「ちょ聞こえてないフリとかw」
「ちょっとツッキー冗談キツすぎない?」
それをさも面白いものを見つけたと言わんばかりにブラックジョークを突き付ける月島に顔を般若にし聞こえていないフリをする影山。山口は月島を諌める。
「何かあったのか?」
日向が心配そうに影山に問いかけた
影山は日向の方を見やると、うぬんとなんとも言えない顔になった。

日向たちの知るところによれば、
影山はバレー馬鹿ゆえに初めは部活を理由に断っていたが、まずは友達からと言われるようになり仕方なくバレーの邪魔をしないという約束のもと付き合うようになったはずだ

影山は初めから自分が口下手なのは知っていたし、彼女たちもそれを知っているのか話したくなったら、影山くんの好きに話をしてもいいと言っていた
影山が話すことは、日向で埋め尽くされていた。
影山の中では彼女たちにバレーの専門的な部分は分からぬところだと思い、好きに話していいならと日向と自分の話をする
早朝練の勝負の勝敗の話、朝練が始まって靴ひもが解けていると怒鳴りながら甲斐甲斐しくその結び方を教える話、レシーブがいつまでも経っても下手くそな話、最近はサーブの練習をようやく文句を言わずするようになった話、自分のトスがなによりも好きな話
放課後になれば、ミニゲームで誰よりも高く頂へ飛ぶ日向の話、自分が誰よりも早く日向の不調や変化に気づく話、小さくてド下手くそだが、天性のバネと勝利への執念があるの話、自主練では自分たちしか使えない神技速攻と置いてくるトスの話、日向が少しでも足に異常が見られればストレッチを欠かさずにしてやったりする話
とにかく影山の話は日向とバレーで占められていた。
初めは嬉々として聞いていた彼女たちだったが、部活がオフの日までバレーの練習をする影山に愛想を尽かし別れていった
理由は、日向くんと一緒に居すぎるせいで、自分たちの恋人としての時間が取れなかったからだ
ついには日向くんと私どっちが大事なの?と泣かれる始末であった。
影山としては、特に話す内容がなかったから、話していたに過ぎないのだが。
やはりそこはバレー馬鹿
「バレーと同じくらい日向が大事ッス」と真顔で答えてしまう影山であった
バレー優先を許してしまったせいもあるが、朝練、自主練の時間を削くことは出来ず、帰りも遅くなる故に一緒には帰れないため、影山と二人きりになれるの昼休みのみだ
田中、西谷などから言わせればいっぺん死んでみる?と言われかねない事実なのだが、影山にとってはどこ吹く風だ。

そんな折、交際を求めてきた女子が現れた。それが先ほど話した自分から別れを切り出した彼女だ。

ショックの理由を、どう切り出そうかとしたところで日向が「あ!」と何かを思い出したように既に着替えを終え肩にかけていたカバンの中味を漁り始めた
「どうした?日向」
「明日の提出課題、教室に忘れた」
日向は顔を青くし、すみません俺教室に取りに行ってきます、そう言ってバタバタと部室を飛び出そうとする日向に影山は呼びかける
「おい、坂ノ下行かねーのか」
「肉まん奢る!」
「よし」
取り合えず日向は肉まん奢るから待っててくれというわけだ
毎日のように一緒に途中まで帰っているのに、どんだけ一緒にいたいの?付き合ってんのか?だから彼女に愛想尽かされるんだよ、まぁ今回は自分から別れを告げたらしいが。
プスーと月島と山口は笑い菅原は仲良くなったなぁと平和そうに笑う
すると体育館で烏養と話し合っていた澤村が日向と入れ違いに部室に入ってきた
「お前たちまだ、帰ってなかったのか。早く帰れよー」
そう言ってやれば未だ部室に残るメンツはまだほとんど残っており、慌ただしく、帰るかー坂ノ下寄るべー、など言ってそれぞれ部室を出た。澤村はさっさと着替えを済ませ、部室の鍵を閉めた
すると部室の外で影山が携帯を弄りながら澤村を待っていることに気付き、苦笑いを浮かべ部室の鍵と体育館の鍵を渡した。
「ホラ影山」
「アザッス」
片手で二つの鍵を受け取り再び日向宛に先に坂ノ下に行くことを知らせようと携帯の画面に目線を落とした時だった。
「お前ら明日も2人っきりか?」
影山はドキリとした
「どうした?」
「あ、いえ。なんでもないッス」
早朝練のことだ。何考えてんだ俺
今回別れた彼女が影山に与えたショック
『日向くんのこと好きなんだよね?』のたった一言が影山に衝撃を与えていた
ドキドキとする胸の内と赤くなる頬
あークソあの女が変なこと言うまで今まで気にしないようにしてたのに
日向といると温かくなる心、たまに肩と肩が触れると日向は驚いて顔を赤くして離れてしまい
「近ぇよバカ!!」と怒られると抱きしめたくなってグワッてくる。菅原さんや西谷さんに褒められて嬉しそうに頭を撫でられるのを見るとムカムカした。自分もしてみたら何故か大人しくなり「れ、練習するぞ!」と離れてしまうと切なくなった
肉まんを頬張りながら歩く道すがら猫を見つけて威嚇されると笑われるけどそれが嫌じゃなかった
その理由を昨日はじめて自覚してしまった
影山は脳内で彼女が言ったことを思い出し、振り払うよう顔を横に振った
日向に先に坂ノ下に行ってる、とだけメールしさっさとエナメルバックに携帯を突っ込んで澤村と共に坂ノ下に向かった。

寒空の下で坂ノ下商店の前で烏野排球部員たちはそれぞれ戦利品を食べながら各々好きなようにだべっていた
どうやらまだ日向は来ていないようだ
「で、影山。ショックなことって?」
「え、と」
逃がさないぞーといった無言の圧力の菅原に負け日向がいないことに油断した影山はポツリポツリと話し始めた

ことの始まりは、一ヶ月前
掃除の為ゴミ箱を持ちながら焼却炉から歩いていた影山は校舎に向かう途中で女子から声をかけられた。
その人物に見覚えはなかった
「影山君」
「なんスか?」
「突然でごめんなさい。手紙だと受け取って貰えるかわからなかったし、部活前とか昼休みだと会えなかったから」
作品名:日向バカの影山の話 作家名:tobi