日向バカの影山の話
どうやらこの女子は自分を探していたらしい。最近は特に女子からの呼び出しもなく、彼女もいなかったから日向と昼飯を食べていたのだ。もちろんその後はパス練だ
手紙というからには所謂そういうことなのだろう
またもや昼の練習時間(但し微々たる時間)を潰されるのか
影山は不機嫌さを隠さず答えた
「何か用か?」
わざとキツく睨みつけ冷たく突き放す影山に女子は分かりやすく怯えたと思うとすぐ女子は用件を話し始めた
どうやら影山の予想通り告白だった。いつも通り断りを入れ友達からと言われ「じゃあよろしくね」と言われ去って行った。
どうせすぐ1ヶ月もしないうちに自分から離れるであろう新しい女友達だ。さっさとバレーしに行こう
日向には女子とまた昼飯を食べるようになったと断りを入れ、ニヤニヤしながらどんな子?と聞かれたがよく知らない女とだけ答えた
そして次の日から昼飯を彼女と共にすることになった影山だったのだが
彼女は他の女子とは違った
「私バレー好きで。日向くんのことも知ってる、烏野の最強の囮なんだよね?」
どうやら彼女は初めから日向のことを知っているらしかった。しかもバレー部関連の話でだ
日向はあのバカみたいなコミュ力のせいか、名前くらいなら、と知っている者も多かった。だが彼女は、それを上回っていた。
しかも粗方男子バレー部員のことを知っているようだった。
別れた女子から聞いたのだろうか?
安定感のあるレシーブに定評のある主将の澤村さん、鋭い観察眼を持ち面倒見のいい副主将の菅原さん、見た目は厳ついのにガラスのハートのエース旭さん、元気でムードメーカーの田中さん、烏野の守護神リベロの西谷さん、背が高くクレバーなミドルブロッカーの月島、ジャンプフローターサーブを打てる山口、次期主将の縁下さんまで知っていた。
しかし彼女はどうやらバレーのルールなどはよく知らないようであった。バレーをするのが好きなのではないのだなということはすぐに分かった
影山は話しやすくて助かると思い、ひたすら彼女にバレーと日向と話をした。
不思議に思ったのはいつだったか、いくらバレーの話をダラダラしても全く嫌な顔をされない。むしろもっとよく聞かせてほしいと頷くのだ。
今までの女子たちは、徐々に日向の話をする度、表情を暗くし対抗意識に燃え自分のアピールをしてきた。
やれ、お弁当を作ってくるだの、今度私もスポーツショップに連れてけだの、あまつさえ、影山が日向と一緒にいることが多いと知るや否や、日向に自分の女友達を紹介するから一緒にダブルデートしようと言い出す女子もいた。さすがに嫌な顔をすればごめん、部活優先だよね。と退いた
だが彼女は影山を束縛しようとはしなかった。
ただ相槌を打ちながら、日向くんは凄いね、影山くんとなら最強になれるんだ、小さいのに一人で中学時代は部活してたんだね、寂しくなかったのかな?でも今はもう影山くんがいるもんね
すごく誇らしかった
そうなんだ、今、日向には俺がいて、俺には日向がいる
孤独の形は違えど、彼はバレー部で一人だったが俺もバレー部では独りだった。
日向と出会えたことは自分にとって大きな分岐点だったに違いない
誰も望まなくなったトスを呼んでくれたこと、それに応えたくて、日向を誰にも届かない頂きの場所まで高く跳ばしたいと思うようになったこと、日向もまたそれを必要としてくれること、日向に尽くすこと、それを喜んで貰えること
日向は暗闇の中で一人いた自分を見つけてくれたような太陽のような存在だった
彼女は日向の太陽のような存在という言葉に深く頷いて言った
私もそう思ってた、と
そんな時だった。
「日向くんに今度直接会わせてほしい」
そう言ってきたのだ
理由が分からず本人に直接聞いてみた
「なんでッスか?」
彼女は頬染めて言った
「影山くんがそこまで言う子だもの、凄い気になるよ」
多分彼女に他意はなかった、と思う
すると彼女は慌てて両手を顔の前で振りながら、自分の発言に焦りながら否定し始めた。
「あ、あの気になるって変な意味じゃなくて、好きなのは影山くんなんだけど、ファン的な意味で!愛でたいっていうか、小動物だし見てて可愛いし、試合見た時から影山くんと息の合ったプレーする子だなぁって思ってたけど、話聞いてから凄い身近に感じて」
「ファンとか聞いたら、多分嬉しがると思いマス」
「そうかな?日向くんって卵かけご飯が好きなんだよね?差し入れとか難しそうだね」
俺いつの間に日向が卵かけご飯が好きだなんて言ってたっけか
「まぁ、そっすネ」
彼女は何故か急に態度を変え、影山に向き直ると、あからさまに日向に近づこうとした
「今日日向くんに会えるよう連絡取れたりしないかな?」
「は?」
「やっぱり、日向くん部活でも寒いのに半袖だし、風邪ひかないか心配だよ。影山君もそう思わない?」
「はぁ、まぁ?」
影山の頭の中は???だった
確かに彼女は最終下校時刻になるまで、寒い中体育館の外で練習風景を見に来ていた。6時くらいになれば帰っていたが。
日向や先輩に散々からかわれながら、あの子結構可愛いじゃん!いいなーお前!今まで体育館まで来てた子なんていなかったじゃん!お前のこと大好きだな!なんて喚いてたから、うるせー集中しろ下手くそ!と日向の頭をはたいていた。
だからまさか日向を見ていたとは思わなかった
「ファンレターでも返事期待しちゃうし、直接会って話してみてもいいかな?」
影山はますます彼女が分からなくなった。
俺、この人と友達からとはいえ告白されたよな?
なんで俺に断って日向に会おうとしているのだろう?
「男バレの寄付金ポスター見た、私つい募金しちゃったよ」
「あ、そうなんスか、アザッス」
影山はとりあえず礼を言うと、日向によくやったと心の中で褒めちぎった
「結構友達に男バレのこと聞いたんだけど、あのポスターって1年生の谷地さんが写真撮ったんだよね?私も写真貰えたりしないかな?」
は?写真?ファンなら欲しがるか。
影山はどこか話を聞いてるようで聞いていない彼女にいつの間にか流されていた
「結構私貢いだし、日向くんと会えないかな?」
み、貢いだ!?貢いだって言ったか?!この女子こんなキャラだっけか、なんかホスト相手に狂っていく女のようだ
もっと大人しめな感じじゃなかっただろうか?
てかこの人日向にどんだけ会いたいんだ
俺は僅かに黒い燻りを感じていた
この女子がどれだけバレー部に貢いだかしらないが、日向に会いたがろうとするのは何故だ?
今まで自分ばかり話をしていたから、彼女の話を聞いたことがなかった影山は、初めて彼女の目的が、日向に会うことかもと疑った。
影山はもう一度、何故日向に会いたがろうとするのか聞いた
「あの、なんでそんなに日向に会いたがるんですか?」
「え?だって初めに私言わなかった?手紙だと受け取って貰えるかわからなかったし、部活前とか昼休みだと会えなかったからって」
影山は鳩が豆鉄砲を食らった顔をした
確かに、そうは言っていた。でもそれは自分を探していたのものだと思っていたし、また自分に告白してくる女子だと思って、自分を好きだと言っていたはず
影山は一か月前に起きたことを懸命に思い出そうとした