日向バカの影山の話
「そしたら日向、ショックだったって言ってた。」
「ショック?」
「今まで付き合ってきた彼女とはすぐ別れてたから気づかなかったけど、恋人だったら普通にそういうこともしますよね?て、聞かれてさ」
「まぁ影山本人が何を思っているかは別にしてな」
「ショックって影山の彼女のこと好きだったのか?て聞いたんだよ」
その場合完全に影山の負け試合だ
俺としては大切な烏野の最強の囮が危ない女にかどわかされないか心配だ
主将として全力で阻止したいところだ
すると菅原は頬緩ませた
「そしたら日向さ、俺、影山のこと盗られたくないって思っちゃったんです。そこは自分の居場所だったのに、仲良さげに話してる彼女のこと見て早く別れちゃえばいいのにって思ったんだって。」
澤村は絶句した。
良かったな影山両想いだぞ
近々赤飯かこりゃ
澤村はまるで親戚のおじさんか、父親のような気分になった
「でも俺影山の友達なのに、変ですよね?俺影山のこと好きだって気づいたら怖くなって、バレたら絶対気持ち悪いって言われる!」て日向、悩んでたみたいでさ
まさか悩んでる内容まで同じだとは思わなかったけど。と菅原は笑う
澤村は似た者同士なんだろうな、と呟いた
菅原はだからさすがにじれったいと思って
「影山は多分日向のこと友達とは思ってないぞ」
「え?!友達とも思われてないんですかね?」
「あ、いやそーじゃなくて。」
あからさまに日向、影山俺のこと友達と思ってなかったのかぁってショック受けたから慌てて誤解を解いたと話した
澤村は苦笑いした
今回の話を聞いて、影山は日向への恋愛感情に忠実になり、その女性から必死に日向を守るだろう
日向も男なのだから大丈夫だろうが、どうも彼は無警戒で無防備で無鉄砲だ
誰彼ともなく仲良くなるゆえか、脇が甘い。気づいたらペロリと彼女に食べられていたなんてありそうだ
恐らく影山は日向に対して過保護になるだろうが、まぁいい番犬だと思えばいいか
だからとりあえず、と菅原は言った
「日向は影山が何ですぐ彼女と別れるか知ってるか?」
「バレー優先してるからじゃないですか?」
「あいつはバレーと同じくらい日向バカだからだよって言っておいた」
さすが烏野の母
「さスガ」
「おい大地、変なダジャレ言うなよ」
冷えきった夜道を日向と影山は歩いていた。珍しく雪の降らない静かな夜だ
昨日影山が好きだと自覚した日向はドキドキしながら影山を盗み見る。ふと顔を上げた。
「「!」」
影山もこちらを見ていたようでお互い顔を赤くし、顔を背けてしまう。 日向は何話せばいいんだー!と1人躍起になっていると影山が口を開いた
「お前しばらく俺と一緒に帰れ」
「?今も一緒に帰ってるじゃん」
「ちげーよ、お前んちまで送るって言ってんだよ」
「?!なんで?」
「お前とんでない女に好意もたれてんだよ、だからしばらく俺から離れんなよ」
「な、何言ってんだよ影山」
日向は不覚にもときめいてしまった
影山のやつこんなかっこいいヤツだったか?
影山は本当のことを言うしかないと日向に告げることにした。
「俺と付き合ってた女が、お前のこと妄信的に好きで、お前狙われてんだよ」
「な、何それ…」
影山の彼女が実は日向狙いだったことを話すと日向はあからさまに怯え出した
「こ、コエー…」
「だから言っただろ、しばらくの間なるべく1人になるなよ、もしどうしても用事とかで1人で夜道歩く時は電話しろ」
で、電話?!日向は彼女が何故、影山を邪魔に思っていたか思い出した
「いや、待てよ。その人影山と俺が付き合ってると思って、影山のこと排除しようとして近づいて来たんだろ?だったら一緒にいない方がいいんじゃねぇの?影山が危ない目に遭う方がよっぽど俺やだもん」
すると影山はピタリと歩みを止めた。気のせいか影山の周りの空気が張りつめている、まじ怒りしてる?!なんで!?
「どうし」
「お前、自分が危ない目に遭ってもいいのかよ。」
「女の子だろ?危ない子とはいえ。俺別に平気だよ?守って貰わなくても。乱暴されたり、何かされそうになっても逃げ切れる自信あるし」
すると影山は突然、日向の腕を乱暴に掴み取り反対の手で顎を掬い上げた。影山の顔が、日向の眼前に広がる
「か、影山…!?」
「お前その女に付き合ってくれなきゃ死ぬとか言われても平気なのかよ」
「な、何言ってんだよ、影山。やめろよ。死ぬわけないだろ、そんなことで」
日向はいつもと様子が違う雰囲気の影山に怯え、目を逸らした
影山は今の発言のどこが気に食わなかったか、ふうん、そんなことか。と言って日向の腰に腕を回し自分に引き寄せると身体を密着させてきた
日向の心臓がドキリと跳ね上がる
「じゃあ質問を変える。好きじゃなくてもいいからキスさせてくれって迫ってきたらどうすんだ?」
「キ…?!な、何言ってんのお前?!おかしーぞ、さっきからっ」
日向の頭の中はキャパオーバーしていた。好きだと自覚した相手から急にそんなことを言われても分からない。胸は痛いし、ドキドキ煩いし、顔はもう真っ赤だ
「答えろよ日向」
イライラした影山は何を思ったのか、顔を近づけてきた
「ま、ま待て、か」
影山と言うはずだった唇は、やや強引に彼の唇で塞がれてしまった。
外気で湿った唇は冷たい筈なのに、そこだけ熱をもっていたかのように熱かった。
時間にしては、数秒だったが、ようやく影山は日向を解放した。日向は何が起きたのかまるで理解出来ず、ただ呆然と影山が自分から離れていくのを見守った。
「わかったか?」
「…え?」
「何も出来なかっただろ」
「…は?!」
影山はフンと鼻を鳴らし、自分のズボンのポケットからハンカチを取り出し日向の唇に当てるとグイッと拭いた。
「お前にとって俺は大切な存在だってのは分かる、相棒だからな。自分のせいで傷ついて欲しくないってのは痛いほど分かる。でも俺にとってもお前は大切な存在なんだよ」
「…何言ってんの影山」
日向はポカンとした表情でポケットにハンカチを収めた影山を見つめた
「俺だって、お前には傷ついて欲しくねぇんだよ。分かれよ、それくらい。」
「そんなんだからお前は…」とブツブツ言い出す影山
「もっと危機感持てよ。お前フラフラしてっから、不安になんだよ」
日向はようやく影山が、自分にわざとあんなことをしてきたのだと気付いた。
「わ、悪かった。もう1人で大丈夫なんて言わない」
日向は相棒なのに頼って貰えないことで傷ついた影山に謝った。
今日から送るからな。と影山が言うとよろしくお願いします。と小さく日向は呟いた
影山はホッとして、日向に呟いた
「でもキスしたことは謝んねーから」
「はぁ?!なんでだよ!ファーストキスだったのに!!」
「ざまーみろ、テメェが隙だらけなのが悪い!」
「何で俺が悪いんだよ!」
「そんなん、テメェで考えろ!」
またいつも通り2人は並んで歩き出した。
確かな唇への情熱を携えたまま
しばらくして、まだ朝練が始まる少し早い時間帯に澤村と菅原に報告したいことがあるからと、澤村の携帯にメールを入れた者がいた。